小池真理子『死の島』

小池真理子『死の島』

死の島
クリエーター情報なし
文藝春秋

発売日:2018年3月9日
形態:単行本
ページ数:409
オススメ度:★★★★☆

本の紹介、第三回は小池真理子さんの『死の島』です。先日ブログに「本は基本的に一冊ずつしか買わない」と書いたのにも関わらず、立ち読みしていたら気になってしまって瀬尾まいこさんの本と同時に買った本です。どちらから読もうか迷いましたが、重たい内容の『死の島』から手をつけることに。

主人公の澤登志夫(68歳)は大手出版社の元編集者で、定年退職後は社会人対象の文芸アカデミーにて小説講座の講師として働いていた。澤の身体は三年前に癌と診断されてから徐々に病魔に冒されてきており、その文芸アカデミーの講師も退任することとなる。かつては妻子のあった澤だったが、48歳の時に自身の家庭外での女との関係などが原因で離婚。古希を目前に控え独り病気に苦しみながら暮らしている澤が、最期自らの意志で人生を終わらせるまでの決意と葛藤を描いた本作は、終始暗く重いテンションで紡がれていきますが、決して読みにくいわけではありません。

小説講座のパッとしない地味で化粧っ気のない、しかし優秀な生徒であった樹里(21歳)との出会いによって、近く死ぬことが確定おりそれを受け入れ治療するつもりもない澤の生活は幾ばくかの瑞々しさを取り戻し、樹里との不思議な、恋人とも娘とも違う関係が深まっていく。

『死の島』とは、離婚の原因の一端ともなったかつての澤の恋人であった貴美子が、澤より早く病死する際家族に「澤に渡してくれ」と頼んで残したアルノルト・ベックリーンの絵。私は全て読み終わった後でWebで検索してこの絵を見ましたが、確実に「死」の瞬間に近づいて行っている自覚のある二人は、この絵に深く惹かれていたようです。

最近ミステリー小説ばかりを読んでいたため、伏線と回収、大ドンデン返し、のようなものを無意識に期待してしまう自分がどこかにいるのですが、そういった類の小説ではありません。ただただ愚直に、我儘に、潔く自分の生に幕をおろすまでの孤独な男を辿っていく。普通ならこっちまで暗くなってきて重苦しくなり途中で読むのをやめてしまうような内容なのですが、そうならずに最後まで淡々と読み進められたのは小池真理子さんの巧さなのだと思います。

尊厳死についてはまだまだこれから日本では議論されていく問題であると思いますが、死を控えたプライドの高い頑固な男が一体どんなことを考えているのか、澤という一人の人間の心理がとてもリアルに迫ってきて、自分の最期を見事に演出するということもこれ一興・・・と思わず肯定してしまいたくなってしまうような、深く考えさせられる一冊でした。ご興味のある方は是非。

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