さあいよいよKOKON入店編です。ランチ中も「どんな風なんだろう、何が起きるんだろう」と少し緊張していた私ですが、kinoさん曰く「小紺さん、年々キャラクターが濃くなってる気がするから、私もどう転ぶか全く予想ができません笑」とのことで戦々恐々としながら。「小紺さんは、自分がそのお客さんに合うと思った靴しか絶対売らない人なので、思っていたのと違う靴が出てくることもあります。でも結局それを買って間違ったななんてことは一回もないんですけどね」とkinoさんが話していたので、私も何か提案してもらったら是非買いたいなと・・・ドキドキのご対面です。
思い返してみると、私のオーダー経験はKOKONから始まりました。大学生の中盤、成人したくらいの時にマーガレットハウエルで英国カジュアルスタイルにハマっていた私は、MH別注のオールデンを渋谷の神南店で購入してから革靴にのめり込み始めて、バイト代のほとんどを注ぎ込んで立て続けにエドワードグリーンのチェルシー202の黒、ジョンロブのアシュリーと買っていって、4足目に手に入れたのがKOKONの422というアデレードブローグでした。新喜皮革の水染コードバンでオーダーしたバーガンディの一足は出来上がってきた時宝石のように輝いていて、足にもばっちり合うKOKONの靴を初めて履いて「KOKONさえあれば、もう有名ブランドの靴なんて要らないじゃないか」と本気で思ったことを今でも覚えています。事実、最初の方に買ったオールデンやグリーン、ロブは既に私の手元には残っていませんが、KOKONでこれまで購入してきた4足(妻にプレゼントしたものを含めると6足)は全てが現役です。
KOKONのブログを読んで、今のortusとクレマチス銀座に分かれる前の小松さんと高野さんを知り、ビスポークバッグやビスポークシューズの世界を知り、小松さんの師匠であるfugeeさんに憧れ、「愛知にビスポーク靴職人はいないのだろうか?おや、Boleroってお店があるみたいだ」と渡邊さんと出会い、渡邊さんの友人でもある鞄職人SusieSvelt鈴木さんを紹介してもらい・・・とこんな流れだったわけですから、私の場合はまさしく“大切なことは全てKOKONが教えてくれた”と言っても過言ではないわけです。
他でもない、この日私を案内してくれているkinoさんだって、KOKONについてWebで調べようとして私のブログに辿り着いてくれた方です。kinoさんは「オボイストさんの方がKOKONについては先輩です」と言ってくれますが、小紺さんと直接お会いするのはこの日が初めてでしたから紹介していただきます。私のイメージよりも一回りスリムで穏やかな小紺さんがそこにいました。当たり前ですが声を聞くのも初めてで、私は勝手にソリッドスネークの大塚明夫さん(見た目が似ている気がして)のような声を想像していたのですが、すごく優しく諭し聞かせるような声でした。
店内に入る時、ディスプレイされた靴をブラッシングしている男性に「いらっしゃいませ」と言われたので小紺さんの他にも店員さんがいるんだと思っていると、小紺さんいわく「靴の勉強をさせてほしいというから、いつでも遊びに来てもらって良いですよとお伝えしたんですね」とのことでした。長年に渡り靴や革について知り尽くした小紺さんの、こうした来るものを拒まない大きな度量のおかげで、名古屋のAvantiや横浜のグロスターロードら取扱店が広がっていくんですね。ブラッシングしていた男性だって、もしかしたらいつか本気でKOKONの靴を売りたいと感じてお店を出すかもしれませんものね。
レジ裏の壁にはずらっと、新旧様々な写真が飾ってありました。風景写真やアートではなく全て人の表情のわかる写真ばかり。出会った方とのご縁を大切にされる小紺さんのお人柄だって、私の今の考え方に影響を与えてくれているに違いありません。KOKONの靴からはそうした想いが滲み出ているように感じるのです。
私は7月末にKOKON行きが決まった瞬間から「絶対にStaffordを履いていこう」と決めていたのですが、偶然にも小紺さんも同じショルダーレザー(アリゾナ)のダークブラウンで仕立てたUチップを履いていました。私は履きおろしから9年になりますが、小紺さんのは驚きの20年! まるで親子のようなペアです、深みと艶が違います。「ショルダーは最初のエイジング、結構分かりやすく進むのですが、そのあとは穏やかにじっくりと育っていく革なんですよ。」と小紺さんが教えてくれました。
最近少しご無沙汰ですが、いつも私が買っている名古屋のAvantiで取り扱っているのは常世田さんの作るハンドメイドラインのみですが、もちろん総本山の金沢では高野圭太郎さんの靴もずらりと並びます。入り口に近い方にはマシンメイドラインが陳列されていましたが、私は店内奥にあるハンドメイドラインの靴たちに夢中です。革好きの小紺さんが仕立てるサンプルはユニークなものがとてもたくさんあって、グリーンのショルダーで仕立てたStaffordやノルベジェーゼ製法のサンプルなんかもありました。
ここに来ることをどれだけ楽しみにしていたかを小紺さんに伝えて、とにかくいろんな靴を見せていただきます。3足並んだクロコダイルの靴は圧巻でした。「クロコは仕立てようと思ったら、まずちょうど良いサイズのクロコの革2枚を探すところから始めるんだよ。片足につき1匹ずつだからね」と小紺さんが教えてくれるように、贅を尽くした靴です。右のホールカットレイジーマンについては、ゴアの部分まで全て1枚継ぎ目なしで仕立てられていました。
お店の壁に一番大きく飾られていたのは文藝春秋の取材を受けている高野圭太郎さんの写真でした。これは小紺さん自ら撮影されたもので、当時まだ若かった高野さんは、師匠である関信義さんのもとでの修行を終えたあとは実家の屋根裏部屋で靴作りへの情熱を燃やしていたそうです。この号の文藝春秋には高野さんのほかにスピーゴラの鈴木さんなど何名かの日本の靴職人が特集されていましたが、小紺さんは「ほら、他の靴職人さんの写真は1ページですが、高野は1ページ半大きく写真が載っているんです。みんな海外で修行してきた職人ばかりですが、高野だけは日本の関さんのもとで修行して、こうして注目されるように必死に頑張ってきたんですよ」と肉親以上に深い愛情を持って高野さんたちに向き合ってきたことが言葉の節々から感じられました。私は常世田さんの写真を見るのは初めてでしたが(高野さんの左下のもの)「これがね、唯一の笑っている写真ですよ。友人の高野と切磋琢磨してこれまで、きましてね」と小紺さんが教えてくれました。
高野さんたちの写真が飾られているのと反対側に設置された棚には、ortusのミモザが飾ってありました。私と小紺さんが履いている靴と同じショルダーレザーが全体に使われていて、部分使いされたブライドルレザーとのコンビです。この形で使い込んでも型崩れせずしゃんとしているところがすごい。私がortusに行ったのは2018年に東京で開催した第二回オボイスト会の時だったな。記事も復旧してありますのでご興味のある方は読んでみてください。
店内の奥には一部セール対象になったハンドメイドラインの靴たちが。「KO-1よりも細身のN1ラストは、なんとなくお客様の反応が今ひとつに感じられてね、一旦サンプルを全部セールにしようと思って。ラストもKO-1から今11を作っているところで、色々と改良を重ねているんですよ。でもセールにしたらみんな嬉しそうに買っていかれるから、やっぱり直さなくて大丈夫なのか?なんて思ったりもしてるんだけど笑」と小紺さん。ちょうど私が気になっていたスリッポンモデルもあったのですが、残念ながらサイズが無く。そこから小紺さんにいくつか私に合う靴を紹介してもらえることになり、待ってました!と。ちょっと長くなってきたので、KOKON編後半は次の記事で。
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