原点回帰の金沢富山一人旅③

Diary

サイズが7であることをお伝えし、小紺さんが私のためにいくつか提案してくれました。「まず最初に、ちょっとこれを履いてみて」と手渡されたのは、かなり前に高野さんが九分仕立てで作ったというパンチドキャップトゥのブラックでした。「この頃のアノネイは腰があってすごく良い革を作っていたんですよ。高野ら職人たちは、私の店には来たがらない。自分たちが過去に作った作品は見るのが恥ずかしいみたいでね。でも、まさに文藝春秋の取材の頃、屋根裏部屋で情熱を持って仕立てられた靴ですよ」というこちら、ボリューム感も程よく、この日穿いていたSHINYAのデニムに合わせても違和感なく履くことが出来ます。Fumiya Hiranoのベージュのスーツなんかに合わせたらとても格好良いだろうな・・・と想像していると、小紺さんが「そういえば、とっておきのやつがあるから、ちょっと待ってて」と一旦奥の扉を潜って秘蔵の靴を取りに行ってしまいました。一体どんなのが出てくるのだろうと待ち構えていると、、、

「これはずっと頭の片隅にはあったんだけど、売らなくても良いかなと思って滅多にご紹介しないんです。でもきっと気に入ってくれると思って」と小紺さんが持ってきてくれたのは、見るからに上質なブラックのカーフで仕立てられたダブルモンクストラップでした。私は黒のダブルモンクはVASSのものを持っていますし、基本的にキャラクターのかぶる靴は持たないようにしているのですが、同じ黒のダブルモンクといえどもちょっとこれは別格です。こちらも高野圭太郎さん作の九分仕立てのものですが、後で確認してもらったらカールフロイデンベルグの特上品でした。kinoさんも「これはなかなかお目にかかれない代物ですね、KOKONのダブルモンクはバックルが特徴的なので、東京などへ履いて行っても靴好きの方はすぐに“KOKONのだね”と分かってしまいます」と絶賛。内側にちらりと見える白いライニングはKOKONでは白ヌメと呼んでいる合タン(コンビ鞣し)革で、もっちりとした気持ちの良い感触が特長です。

私はいつも靴好きの友人たちと話しているのですが「革は銘柄ではない」と考えています。素晴らしい革と、革を熟知した職人が最適な部分を使うことが大切であって、ワインハイマーだからとかカールフロデンベルグだからとか、そんなことは関係なく目の前の革が良いかどうか、これが大事なのだと。小紺さんと話しても全く同じ話になりここについては議論の余地もなく正論だと思っているのですが、それでも、です。やっぱり、カールフロイデンベルグの革、すごいんですね。これも高野さんが屋根裏部屋で作った一足だそうですが、その頃目利きの小紺さんが仕入れたものですから、クオリティは半端じゃないです。しかも驚くべきことに、この一足はストラップの穴が一つしかありません。既製品として仕立てているはずだから、穴は複数開けておいて少しでも多くの人の足にフィットした方が売りやすいはずなのに。上に記した通り「これは売らずに傍に置いておいても良い」と小紺さんが感じるほどの力作だったのでしょう。

そんな一足がですよ、甲高でいつもKOKONでは乗せ甲のアップチャージをしてオーダーする私の足に、合っちゃったんですよね。それもものすごく次元の高いフィッティングで、押し付けられるようなところは一つもなく本当に包まれるような感覚。履けばより分かる、この靴がいかに素晴らしい素材と素晴らしい心意気で仕立てられた一足であるかということが。小紺さんもこのモデルを開発するときはストラップの角度など何度も調整し直して苦労したそうです。「2本のストラップが圧力を上手く分散してくれるので、すごく履き心地が良いでしょう」と小紺さん。モデル名はLiverpool、美しい夜景が有名な英国の港町の名前です。小紺さんは仕舞ってある靴もきっと定期的に大事にメンテナンスをされているのだと思います、革はもちもちと生きていて、きめ細やかなカーフが放つ輝きはまるで夜の水面のようです。

もう一つのおすすめはこちらも珍しいナチュラルコードバンを使った、この日小紺さんが履いていたのと同じ3アイレットUチップでした。これも履き心地はすごく良くて、履いているところを上から自分目線で見るよりも、鏡で第三者目線で見た方がより良さが引き立つ靴でした。「このコードバンを作っていた頃の新喜も良い革を作っていたんですよ」と小紺さん。素晴らしい靴でしたが、私の心は完全にLiverpoolに奪われていたためにこちらは見送り。

kinoさんもご自身のカメラで私が試着している様子を撮影してくれました。見てくださいこのダブルモンクのなんとも表現し難いほどの美しさを。小紺さんの宝物のような靴が、私の足にシンデレラフィットする奇跡の瞬間の感動と言ったらなかったです。

その後もう一足、10分仕立てのカールフロイデンベルグスリッポンも履かせていただきましたが、もう何を見てもLiverpool以外は目に入らなくなっていたのでおとなしく購入意思を小紺さんに伝えます。これはこれで、土踏まずをググッと上に引っ張るような履き心地で素晴らしかったです。

奇跡はまだまだいくつか続きます。私はAvantiで購入したブライドルレザーのダークブラウンのベルトをもう何年も愛用していて、本当に素晴らしい作りのベルトなので是非ブラックで、それもエレファントで欲しいなと思っていたのですが、ラックに一本だけ31サイズのものがかかっていて。ちょっと小さいだろうなと腰に通してみるとやはり私には長さが足りず、また改めて・・・と思ったら、ちょうど一本だけバックルがついていない状態の、まだ袋に入ったエレファントのベルトが机に置いてあって。「funnyさんがこのバックル付きで仕入れられなくなって、バックルだけ手配しているところだったんだけど、ちょっとこれ試着してみて」と、元々31についていたバックルを取り付けたものを巻いてみるとちょうど良いサイズ。それも陳列してあったものはもう少し色が薄かったのですが、サイズの合う方はより理想的な濃いブラック。もうこれも、連れて帰ります。きっと私の10年振りのKOKON再訪を待っててくれたんだね。

もう色々が嬉しすぎて、小紺さんと記念撮影。写真を撮ってくださいと伝えると「じゃあエプロン取らないと」と仰いましたが、デニムのエプロンをつけてさながら職人のように(小紺さんはお客様の靴のちょっとした手直しなどはご自身の手で実施されているはずです)店頭に立つ小紺さんが格好良かったのでそのままでお願いしました。私の満面の笑みから、どれだけ幸せに感じたかが伝わると思います。

さらに「ちょうど昨日出来たばっかりなんだけど、輪島のウコン布を使ってハンドメイドライン用の袋を作ったんですよ。良いでしょう、メイドイン輪島。せっかく来てくださったから、シューツリーもプレゼントします。この靴をいい人に履いてもらえて良かった。」とコルドヌリアングレーズのシューツリーをサービスしてくれました。

他にも、トゥ部分だけ輪島塗が施されたマシンメイドラインの靴やオリジナルのブラシなどを見せていただきました。小紺さんのご友人が輪島塗の職人さんだそうで「ここまで綺麗にできるのは奴しかいないんですよ」と話しておられました。

小紺さんから「結束(結足)撮りましょう」とご提案いただき3人でシューサークルを作って撮影しました。kinoさんの3アイレットダービーは初めて仕立てたハンドメイドラインの思い出の一足だそうです。外で見るとより小紺さんの20年ものの靴が凄みを増して見えます。

小紺さんとお別れした後、kinoさんとは新竪の商店街にあるコーヒーショップでカフェラテをいただいたのですが、靴とベルトを手に入れられたことが嬉しくて結局その場で履き替えてしまいました。履き下ろしたばかりの靴を履いて駐車場の方へ歩いて行くと、またしてもKOKONさんが歩いている我々を見つけてお店の外へ出てきてくれて、もう早Liverpoolを履いている私を見て「昔から履いて帰る人はホンモノだって言うんですよ」と嬉しそうに笑ってくれました。素晴らしいアイテムを手に入れられたことはもちろんですが、この靴を見るたびに小紺さんとの間に生まれた絆を思い出すことが出来るという事実が何よりもプライスレスです。KOKONは2025年で30周年とのことですから、その頃には履き込んだLiverpoolを履いてまた再会出来ればいいなと今は夢見ています。

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