私のブログとしては大変珍しく情報を統制して準備を進めている通称“プロジェクトT”の打ち合わせが連日連夜各所と続いていますが、昨日も夕方以降は京都入り。路地裏のラーメン屋の赤提灯が灯る頃に到着し、愛知に戻ってきたのは日付を跨いでからでした。最近このプロジェクトに対しての私の熱量がとてつもなくて、どれほどのハードスケジュールでも楽しくて仕方がありません。全体像を公開できるのはしばらく先になりますが、ブログ読者の皆様にもきっと喜んでもらえるはずです、むしろその喜びを想像出来ているからこそこれだけの動きが出来ているのだと思います。
目的地はひとつだけ、藤井大丸の時在服飾設計です。つい最近も来ましたが、今日はプロジェクトTの打ち合わせのためなのでいつも対応してくれる中野真樹さんに加え、時在服飾設計を立ち上げた中村憲一社長にも来ていただくことになっていました。Instagramでお写真は拝見していましたが、お会いするのは今回が初めて。少し緊張しながら、18時のお約束でしたが早めにお店に到着しました。
社長はまだ到着前で、今日もカウンターにはマサキさんがすっと立っていました。「コーヒーいれますね、水を入れてきます」とケトルを持って一度店外へ。この前来たばかりですが、買う目的とは違う目線でお店を見るとまた違った魅力に気付かされます。詩集や写真など、時在のお店の世界観を構築しているのは何も服だけでありません。緑の葉っぱの絵と優しい言葉が続く詩集を読んでいるとマサキさんが戻ってきました。
私はこの日、先日購入した白いブロードのブザムシャツにFumiya Hiranoのトラウザーズ、ヴェトナムで仕立てたライダースという装い。「このプロジェクトのために色々な生地を見ていたところでした」とマサキさん。私もバンチを一緒にめくりながら、好きな生地の特徴や毎日のアイロンがけが趣味であることなどマニアックな話で盛り上がっていたところに、中村社長が到着されます。本業の名刺を渡しながら自己紹介をして、今回私が考えている計画についてお伝えしながら詳細な打ち合わせを。
レジのあるカウンター横のベンチに社長と並んで座って、バンチをめくりながらお互いのことをじっくり話し合いました。中村社長は人の話をとてもよく聞いてくれる方です。こちらが投げかけた内容のすべてを受容し大らかに包み込んだ後、返答一つひとつ丁寧にリボンをかけて両手で差し出してくれるような人物でした。やっぱり素敵な服は、素敵な人が生み出すに違いないのです。
「マサキ、ノートと鉛筆、とってくれるかな」と私に対してと変わらぬ丁寧なやり取りが見ていてあったかい気持ちになります。HBの鉛筆を手に、さらさらと筆圧をかけずに打ち合わせ内容のメモを取っていきます。時在服飾設計のお店に行くと、壁にはプロダクトのデザイン画が飾られていていつ訪れても見入ってしまうのですが、中村社長の書く文字までもがまるで魔法でもかかったかのように儚げな光に満ちていました。まだ秘密のことも多いので、肝心な部分にぼかしを入れなくてはならないのが残念です笑
中村社長は元々東北のご出身で、社会に出てから何十年もアパレル一本でやってこられたそうです。「バイヤーとして本当にいろんなものを見てきたので、その感覚だけは僕の武器だと思っているのです」と控えめながら確たる芯を感じます。出身の地が被災した東日本大震災は、自身の方向性について考える契機になったそうです。京都では元々ひっそりと佇む路面店で営業されていた時在は、ポップアップストアを経て1年前に藤井大丸の常設店となりました。店長のマサキさんは、路面時代にお客さんのフリをしてやってきて「弟子にしてください」と申し出たそうです。
「路面店で雰囲気を出して営業することは大好きなのですが、あえてターゲットを絞り込みにくい百貨店の中でいかに自分の世界観を出せるのかに挑戦するのも、結構面白いんですよ。藤井大丸もとても懐の深い老舗百貨店で“好きにやってもらって良いですよ”と言ってくれているので、文字通り好きにやらせてもらってます」と中村社長の言葉。フロアの中でもここだけは異空間ではありますが、いろんなお店を縫うように見たいタイプのお客様も、私のように吸い寄せられる拗らせた変態タイプも、海外からの旅行客も、日々様々な人たちが来店される場所を作るのは確かに路面の店舗を一から自分で構えるのとは別の奥深さがありそうです。
マサキさんが時折入れてくれるコーヒーやルイボスティーを飲みながら話し込んでいると、気が付いたらあっという間に2時間以上が経過していました。この日はそのまま3人で会食の予定でしたので、まもなく藤井大丸が閉館となるあたりで社長と私は二人でお店へと向かいます。マサキさんは閉め作業を終えてから合流される段取りで、事前に予約してくれていた藤井大丸近くの上品な京風居酒屋へ。館の1階で声をかけていたお花屋さんとはお知合いのようで「彼は元々出身地が同じで、出店先を探していたので僕から繋いでみたんですよ」と教えてくれました。他にも同じ東北のビスポークスーツ職人やジュエリーアーティストとも仕事で繋がっていて、地元を大切にされていることが伝わってきます。
お店に到着してからは靴を脱いで二階へとあがります。マサキさんを待つ間、もう少し故郷についてのお話を伺いました。「京都は人工物の建物などを通じて歴史を感じることが出来ますが、東北の手つかずの大自然もクリエイターには良いインスピレーションを与えてくれますよ。今の季節でしたら身体の芯まで凍えるような寒さなど、都会ではなかなか感じられませんからね。何もないのが魅力というか」と中村社長の言葉を聞いていたら、無性に旅に出たくなってきました。
是非一緒に東北の温泉でもいきましょうなどと話しているところに、マサキさんが到着されました。「実は夜ご飯しか食べないんですよね」と仰るマサキさんには驚きましたが、その代わりに一回でもりもり食べられるようです。クールに見えておちゃめなところもあるようで、社長がバックヤードに置いておいたみかん一袋がいつ間にか全て食べられていたストーリーなど、笑わせていただきました。
一方で休みの日でも黙々と家にこもって服を作っているというストイックなマサキさん。「そこがマサキの魅力でもあってね、24歳とまだ若いから普通遊びたくもなるのでしょうけど、こちらが何か言わずとも一生懸命なところがあって、本当に服が好きなんだなといつも感じています」と社長も仰ってました。長年の経験と人脈がありつつも新しいものを否定しない懐の深い中村社長と、服作りに情熱を傾けてこれまでの常識を打ち破るチャレンジを続けるマサキさん、まさに最強の二人です。
おばんざいからはじまったコース料理はどれもとても美味しく、マサキさんは社長が食べきれなかった分まで引き受けて平らげていました。訥々と語る私たちの声のボリュームに合わせてBGMの音量を下げていただいたり、心遣いの嬉しい素敵なお店でした。
この3人で、また新たに面白いことを始めていきます。プロジェクトTの進捗についてはInstagramの専用アカウントで発信していますので、気になる方はぜひそちらもチェックしてみてください。
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