NH WATCH TYPE1C【納品編①】

Watch

2020年ははっきり言って嫌いな一年でした。

30歳になる節目の年、そしてオリンピックイヤー、去年から企画が始まっていたオボイストモデルの発売・・・始まる前から私にとって明るい話題が並んでいて「きっといつにも増して素晴らしい一年になるに違いない」、そう思っていました。

それが、人類から自由を奪うコロナウィルスに始まり、家族の病気、公私の友人の病気、仕事の不振・・・色々と個人的にも辛い出来事がまとまって降りかかってきたのです。基本的にはいつもポジティブで能天気、ちょっとした負の出来事さえ前向きに捉えられるのが私の唯一の取り柄と思っていたのに、みるみる思考は後ろへ後ろへ・・・こんな嫌な年、早く終わって欲しい。そう思っていました。

それでも、最後の最後に、希望を持って明日へ向かうことが出来るような素晴らしいプレゼントが届きました。それが私の30歳の節目を記念に購入したアガリの時計・NH WATCH TYPE 1Cです。

“胸に抱え込んだ迷いが プラスの力に変わるように いつも 今日だって僕らは動いてる
嫌なことばかりではないさ さあ 次の扉をノックしよう
もっと大きなはずの自分探す 終わりなき旅 終わりなき旅”

Mr.Children 『終わりなき旅』

その日は楽しみで朝早く起きてしまい、ひとり先に起き出しドーナツとカフェラテを食べてから、勝負服に着替えました。何を着ていこうか迷いましたが、Fumiya Hiranoのビスポークスーツに、マーガレットハウエルのタートルネックニットを合わせました。

靴はオボイストモデル。神戸のトランクショーに伺い、正式に注文した日もこの靴を履いていました。注文時一緒だった妻を今日は職場へ送り、そのままの足で私は豊橋へ。今日は元々、Sewnとオボイストモデルの次回作について打ち合わせをする約束がありましたが、先週末飛田さんから「なんとか年内に、NH TYPE 1C No.005が出来上がりました」とご連絡をいただきました。私はTYPE1Cを注文した客としては世界で8番目でしたが、シリアルナンバーを選ばせてくれて、選択可能な中から“005”を選びました。

注文時に訪れた神戸まで行かなければならないと思っておりましたが、なんと飛田さん自ら愛知県まで持ってきてくれるとのこと。お言葉に甘えて、打ち合わせ前に豊橋で納品していただくことにしたのです。

ランチを誘っていただいたので、以前Sewnやそろそろさんたちからオススメいただいたカレー屋さん・カルダモンへ行くことに。私の方が飛田さんより少し早く豊橋に到着したので、ちゃんと営業日かどうか下見に。平日ですし開店直後でしたらそれほど混み合うこともないとスタッフの方が教えてくれたので安心しました。

駅の改札前で飛田さんと落ち合います。久しぶりに会う飛田直哉さん、私は昨日から楽しみで楽しみでどこか浮ついた感じがしていたのですが、いつも通りのジェントルマンぶりに少しずつ自分も落ち着きを取り戻していきました。飛田さん、今日はマークチョーがデザインされたというArmoury別注コヒーレンス(モデル名“Marc”)のタイロッケンコートを白いタートルニットに合わせて着こなされていました。

靴はジョンロブのUチップ、コンビ素材にカラフルなソックスが茶目っけたっぷりで飛田さんらしくて素敵です。

カルダモン店内、什器など所々にこだわりが感じられ、広々とした気持ちの良い空間でした。席も十分な距離が保たれていて安心して食事が出来ます。

時計の前にまずは食事を。カレーを2種類選ぶことの出来るプレートランチを選びました。野菜のセンス、パンチの効いたスパイシーなカレーに舌鼓。飛田さんも絶賛してくださいました、豊橋に詳しい友人たちのおかげで素敵なランチタイムになりました。

食後のコーヒーが出てくるまでは仕事観や最近の私の趣味活動について、じっくりお話を聞いてくださいました。一通りのお話がふっと止んだところで、「では、いきましょうか」といよいよ時計の受け渡し!

時計本体から小物に至るまで、全て飛田さんがディレクションされていますので、思いの詰まった一つ一つについて説明をしていただきながらゆっくりと。まずはショッピングバッグ、NAOYA HIDA & Co.のイメージカラーである勿忘草のような色の紙袋、ど真ん中にシンプルに社名が入っています。

次は説明書と保証書の引き渡し。ロレックスなど大手メーカーでは、異なる種類の時計を買っても搭載されている機械が共通場合などには、同じ説明書が多国語対応で入っていることが多いそうですが、こちらは正真正銘TYPE1Cのためだけに作られた説明書・保証書になります。右下には飛田さんのサイン、そしてNHWATCH株式会社の角印も押されていました。

続きまして時計ケース。すでにケースに時計本体が入っているかと思いきや「本体はより安全な別のケースに入れてあります。ベルトが曲がることを嫌うユーザーもいらっしゃいますから。」とのことでした。

化粧箱から出てきたのは木型を使って立体成型されたレガーメ製のウォッチケース。思っていたより軽い仕上がり。継ぎ目のない一枚革が手に馴染み良いです。一つ一つ施されたパティーヌも美しい、イタリア原皮のレザーだそうです。

美しい革の曲線に至るまで、飛田さんの美意識が行き届いています。こちらは時計ケースとしての役目以外に、眼鏡やペンを入れる方が多いそうです。私も万年筆やボールペンをこちらに入れるようにしようかな。いつも持ち歩いていたい。

一つ一つ丁寧にご説明くださる飛田さんの腕には、今日はユニバーサルジュネーブの時計がはまっていました。来年以降発表される予定という新作のトランクショーに向けて、ご自身用のTYPE1Cをはじめとしたサンプル時計は現在メンテナンス中とのこと。

そしていよいよ、専用コンテナに入ったTYPE1C 005にご対面・・・!!!

・・・。言葉を失くすほど、美しい時計。TYPE1Cのサンプルは神戸で見ていましたが、サンプルから製品版にするにあたってさらに細かいブラッシュアップが図られ、より一層洗練されています。具体的に分かりやすい点だと、ブランド名の刻印がサンプルと比べてほんのわずかに12時方向へ移動されています。私はこの半年、穴が開くほどTYPE1Cの実物・写真を見てきましたから、些細な変更点であっても確かに違いが感じられました。こちらの方がよりスタイルが良く、人間で言うと脚長に見えます。

ケース素材は904Lステンレススチール、飛田さんが苦心の末に製品化に成功したこだわりです。詳しくは他のサイトでたくさん解説されていますので省略しますが、並の貴金属よりも美しい。

「こんなキワキワにどうやって刻印を・・・?」と専門家たちが不思議がるという904L削り出しのバックル。超高精度微細加工機あってこそだそうです。

チェリーニと並べてみる。十分ドレスっぽいと思っていたチェリーニがぷっくり見えるほど、エッジが立ったTYPE1C。双方ともドレスウォッチであることには変わりありませんが、目指す方向性が全く異なるのが面白い。

ここらでもう我慢が出来なくなり、早速腕に装着。ガルーシャテイル製のミネルバボックスを使ったほとんど黒に近いダークネイビーのストラップは、非常に肌馴染みがよくとにかく柔らかい。それでいてやわな感じがしないのが不思議です、この柔らかさも飛田さんのこだわりのようで、ジャンルソーなどはここまでのしなやかさがなかなか表現出来ないのだそう。スージースヴェルトに作ってもらったがっしりエレファントベルトとはこちらもベクトルが真逆に向いた手縫いベルトです。(標準仕様の茶色のデストロイドキップベルトは来月末以降に完成予定)

飛田さんが私のカメラを使って、おすすめの角度でポケットショットを撮ってくださいました。格好いい・・・この角度、自分一人でも撮影出来るでしょうか。そして見てください、私の腕にはこれがベストなサイズなのでは?と思えるほど綺麗に収まっています。

見る角度、そして時間帯や日の差し加減で全く異なる表情を見せるジャーマンシルバー製の厚い文字盤。サンプルの時よりさらにきめ細かい梨地が表現されていました。

・・・と、この辺りでかなり写真が増えてきてしまって読みにくいでしょうから、一旦区切りとさせていただきます。飛田さんの生き様や知性が感じられる趣深いこの時計、後編ではより詳しく見ていくとともに、二人でSewnのアトリエを訪問する様子をご紹介してまいります。

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