Sewn shoe-maker×Oboist 東京受注会⑦(Naoya Hidaオフィス探訪記 後編)

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後編では、加納さんの彫金や藤田さんの時計設計について、教えていただいたことをまとめていきたいと思います。私が飛田さんと色々とお話している間も、受注分のNaoya Hidaの文字盤を彫り続ける加納さん、背筋を伸ばし顕微鏡を覗いて作業する姿が非常に格好良くて。飛田さん曰く「極めて日常的な光景です」ということでした。

加納さんはこの日左腕にTYPE3Bを装着されていましたが、普段は時計を外して作業することが多いそうです。「右腕と左腕の重さのバランスが気になってしまって」と加納さんは仰っていました、繊細は作業ですから私もなるべく邪魔しないようにそおっと撮影を・・・と心掛けていたのですが、加納さんは作業を何度も途中で中断し非常に丁寧に、不勉強な私でも分かるように易しく教えてくださいました。

彫金に使う彫刻刀(英語ではグレイバー、フランス語ではビュランと呼ぶそうです)は先が山型に尖っているものと、平らなものを使い分けて作業するそうで、山型を使って彫り進めて、平らな方で表面を整えるとのことでした。実際に私にも顕微鏡を覗かせてくれて作業前と作業後の文字盤を見せてもらいました。この私の眼にしか焼き付いていないのが残念ですが、拡大すると一点ずつ手作業で彫られているということをダイレクトに感じることが出来、割と真剣に顕微鏡が欲しくなりました。

このように文字盤をセットし、一文字ずつ彫っていきます。最初TYPE3の作業をしていた加納さんでしたが「ローマインデックスは彫るのに非常に時間がかかるので、TYPE1Dのアラビア数字を彫るところを見ていただきますね」と文字盤を置き換えてくれました。予め下書きが転写された文字盤に彫刻刀を入れていきます。TYPE1の文字盤の中では、特に8の上部とスモールセコンドの境界が“腕の見せ所”と加納さんは仰ってました。この写真や肉眼では8の上部がスパッとスモセコで切り取られたように見えますが、ルーペで拡大して見てみると実際には境界線にほんの少しだけ隙間があるのですよね。カシューを流し込んだ際、ここが繋がっているとスモセコ側にカシューが流れていってしまうため、そのほんの少しの間がダムの役割を果たしているということでした。

少しずつ数字が整っていく様子を顕微鏡越しに見るだけでも、私は目がショボショボしてしまいました。集中し続けて作業出来る加納さん、流石プロフェッショナルですね。。。藤田さんが加納さんのことを「一見コワモテですがサービス精神旺盛な人です」と紹介してくれましたが、本当に優しい方でした。

それとこれは加納さんに限らずこのオフィスに来て最初に感じたことなのですが、机の上がとにかく整頓されていて綺麗なんですよね。作業中もきちんと陳列された彫金道具を見れば、普段から整理された状態で作業されていることが窺えます。

年間70本程度と極少量しか生産しかされないNaoya Hidaの時計ですが、今回の作業を見てその困難さがよく分かりました。むしろ私が購入した時と比べれば生産量は2〜3倍近くなっています。飛田さんがTwitter上でも発表されていましたが、新しいモデルを展開しながらTYPE1〜3を作り続けていくためにも、これから時計師と彫金師をそれぞれ1人ずつ募集するということでした。

続いて時計師藤田さんの島へ。The ARMOURYとのコラボレーションモデルを例に説明をしていただきました。かつてF.P.ジュルヌ時代に飛田さんと1年ほど一緒に働いていたことがあったという藤田さんは、その後セイコーの修理者として長くお勤めだったそうですが、

「2013年頃から3人で作業をし続けていますが、その頃は我々の熱意だけで取り組んでいてどこからも給料は出ませんので、自宅に自腹で設備を整えました。デザインをする上で必要となるCADの知識は当初全くなかったため、独学で勉強して今に至ります。若い頃に飛田さんから誘われても経験不足で上手くいかなかったと思いますが、修理者として働いていた経験が新しい時計を設計する上でもとても役に立っています。設計上ギリギリを攻めすぎるとどうしても壊れやすくなり、お客さまにもご迷惑をかけてしまうし、納品した時計がすぐに壊れて修理に返ってきては私たちも困ってしまいます。そういう意味で、攻めるところは攻めつつもあんまり無茶な設計はしないようにしている」

ということでした。飛田さんからは「こんな時計を作ってみたい」というアイデアが藤田さんに持ち込まれ、時計師としてそれが実現可能なのかどうかじっくり(つい最近では気付いたら6時間ほど話し込んでいたとも聞きました)検討していくそうです。私はこれまで飛田さんにしか会ったことがなかったから、“Naoya Hida”というブランドはパワーバランス的には圧倒的に飛田さんが強いのだと思っていましたが、今回のアトリエ訪問を経てそれは間違っていたということに気が付きました。飛田さんが飛田さんでなければならないのと同様に、時計師は藤田さんでなければ、彫金師は加納さんでなければ絶対にNHWATCHシリーズは完成していないのだと。バンドみたいで、なんだか格好良い関係性ですよね。JENや田原さん、ナカケーがいなければMr.Childrenじゃないのと同じで。

The Armouryコラボレーションモデルについても、The Lettercutter以前に3つほど別の案が持ち込まれたそうです。どんなものだったのかは分かりませんが、それについても3人+マークチョーさんで熟慮を重ねて生まれたのがTYPE2ベースのコラボモデルだったのですね。申し込むには発売のタイミングで香港かNYのThe Armouryに行くしかなさそうですが、日本にいる方でもその価値は十分にありそうです。昨日、ちょうどマークチョーさんが保有する時計コレクション66本を放出されるオークションが終了したところですが、マークさんが最初に手に入れたNHであるTYPE1Bは最終的に定価を遥かに上回る価格で落札されていました。TYPE1Cのオーナーとなれただけでなく、こんな風にオフィスの見学をじっくりさせてもらえる機会を得られた私は本当に幸運だったと思います。

まだまだ書きたいことはあるのですが、東京旅行記はもう少し続きますのでNaoya Hida訪問記についてはこの辺りにしておこうと思います。最後に4人で何枚か記念撮影を。まずは4人の腕元を集めて時計サークルを作りました。ただでさえお目にかかる機会のないNHシリーズが大集合、非常に珍しい光景です。

タイミング悪くこの辺りでちょっとカメラの調子が悪くなり(現在はとりあえず復旧)、セルフタイマーが使えなかったため飛田さんとの2ショットはマイカメラ、冒頭の写真は飛田さんのカメラをお借りして撮影しました。TYPE1B発表前の飛田さんとの偶然の出会いを経て手に入れた私の宝物であるTYPE1Cは、藤田さん、加納さんとの邂逅をもって単なる腕時計という範疇を超越しさらに大切な存在へと昇華されました。Naoya Hidaチームの皆様、この度はお忙しい中お時間を作ってくださり、誠にありがとうございました。(東京旅行記は⑧へ続きます)

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