まゆこんさんいらっしゃい!(アルデックス工場見学編)

Clothes

小島さんの案内ですぐ裏手にあるアルデックスの工場へと向かいます。まずエントランスで飛び込んできたのは「私がつくるアルデックス」という書作品。書道が得意なスタッフの方が書かれたそうで、これを見るだけでも躍動する職人たちの姿が目に浮かんできそうです。

みなさんは「工場生産のスーツ」と聞いてどんな光景を思い浮かべるでしょうか。全自動で、ボタンを一つ押せばマシンが勝手に作ってくれると思っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。私もそこまでではなくても、一人の職人が丸縫いするビスポークと違って人の手の介在する余地はかなり少ないと勘違いをしていました。それが見てください、この広大な敷地で一心不乱に手を動かし作業に没頭される職人さんたちの姿を。

一着の服を作るのに一体何人の手作業が加わっているのだろう。小島さんのガイド付きで順番に回っていきます。「ハンドメイドでしか絶対に得られない効果もあれば、機械を使いこなせればそれに匹敵する(もしくは凌駕する)部分もある。」と話す小島さん。裁断に関してはオペレーターの女性が調整をしながら機械で行われていましたが、工場にあったその2台だけでも超高級外車が1台買えてしまうような代物。効率化出来るところには投資すべき、との言葉とおり、現代だからこそ生み出すことの出来るスーツ作りがアルデックスでは行われていました。アームが動いてカットする際に生地が動かぬように、台座の下から強力に吸引される仕組みで、ギュィーンと大きな機械音が鳴っています。工場内は他にもたくさんあるいろんな機械の音で満たされています。とはいえ、このマシンに生地を載せる前段階ではまた別の職人さんが手作業で柄合わせを行なっていたり、マシンはあくまで職人技との掛け算であることを思い知らされます。

「大手セレクトショップの名物バイヤーです」と紹介されても何の違和感もない小島さんの風貌からすっかり忘れていましたが、彼は根っからの職人です。工場内をまわる途中いくつものセクションで、他の職人さんたちが担当している作業をご自身で実演して見せてくれて、裁断された生地が巧みなアイロンワークで押し引きされ、年代物のミシンが動くごとに立体的な服へと近づいていく様を目の当たりにしました。身体のパーツに沿うようなスーツとは、こうした細かな手作業の積み重ねの結果であって、それはビスポークは言わずもがなマシンを使った仕立てでさえ熟練した職人技があってこそのものである、と。「よし、上手くできた」と実作業後に満足げな表情で変化した生地を見つめる小島さんの表情にはドキッとするような色気がありました。ちなみに小島さんが操っている三菱重機のミシンは1970年製、こうした古い年代のミシンでなければ出来ないことも多いようで大切にメンテナンスしながら使い続けていらっしゃるそうです。

例えばこちらの写真が実際に小島さんのアイロンワークで変化した生地の表情です。ついさっきまで平面だった生地が、まるで生き物のようなうねりが生まれます。「生地目を見極めながら作業することが何よりも大切」と語る小島さん、他の職人さんたちとの接し方を見ていても、彼がいかに職人としてリスペクトされているのかがすぐに分りました。

トルソーに今作業していた生地を乗せてみます。右半分が小島さんによるアイロン後です、左と比べると身体の線に沿った曲線が生まれているのを見て取ることが出来ます。

もう一つご紹介するとしたら襟部分のアイロンについてでしょうか。首に沿って登っていく襟が良いジャケットだとよく言われますが、ナポリもフィレンツェもイギリスも日本も、アプローチの仕方は千差万別。アルデックスでは首への当たりが強くなりすぎないような心地良い着心地を目指してこの辺りは調整されるようです。丁寧な仕事ぶりを見ていると「下手にクリーニング屋なんかに出したらせっかくの努力が台無しになりそうで怖いね」などと見学者メンバーで話していました。

工場内を眺めていて気付いたのですが、アルデックス内には若い職人さんたちが非常に多い印象を受けました。高齢化が深刻な日本ですが、地元愛知にこんな先の見通しが明るいスーツ工場があるとは思いもよらず、素直に嬉しくなりました。同年代を生きるものとして、純粋に応援したくなりますよね。

通常他社では100工程くらいのところアルデックスではなんと約400もの工程を経てスーツが完成するそうです。1時間では工場内が見切れないくらいでしたが、最後に小島さんが個人的に仕立てているというドラッパーズのヘリンボーン生地を使ったスーツを見せていただきました。「ドラッパーズやカノニコからはイギリススタイルへの憧れを強く感じて、両者のいいとこ取りな生地が多く気に入っている」という小島さんのこのスーツの生地が、今回私が見させてもらった中で一番ブッ刺さったものでした。今度お伺いするとき、もう一度見させてもらおう。(既に次アポ確約済み)

他にもたくさんの工程を実演いただいて説明してもらったのですが、すみません私の頭の容量がパンクしてしまって全てを文字に起こすことが出来ないため、ご興味のある方は是非アルデックスさんへ連絡してみてください。基本的に工場の見学は連絡すれば可能だということです。小島さんはじめ職人さんの皆様には、お忙しい中貴重な経験をさせていただき心から感謝申し上げます。5月中旬に再度訪問する際に、小島さんとはよりディープなお話をたくさん出来ればと楽しみにしています。

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