ふるさと納税悲喜交々 イルプレドロでオーダーシューズ②

Shoes

今年はコロナ後久しぶりに旅行することの多い一年でしたが、年内最後の旅はまたしても一人。告知してあった通りふるさと納税で頼んだイルプレドロのオーダーチケットを持って鎌倉に伺うことにしていました。少し調べてみたところ、以前から気になっていた横浜のT.Shirakashi Bootmakerさんもイルプレドロから小一時間で辿り着くことができることが分かり、こちらも事前にアポイントメントを入れて今回は2つのビスポークシューズ店をハシゴすることのみに特化した旅行に。これがまたとてつもなく素晴らしい旅になりましたので、私の中の興奮が冷めないうちに早速夜を徹して書いていきます。

今回は日帰りの弾丸旅行でしたので、朝は8時前には出発して車を流していきます。家の近所こそ多少の通勤渋滞があったものの、高速道路に乗ってからは終始スムーズで、休憩を入れても3.5時間程度でまずは鎌倉に到着。時計はNaoya HidaのTYPE1Cをしていきました、本当は順番的にカラトラバの予定でしたが、なんとなく白樫さんが見たいんじゃないかななどと妄想して。

私は旅行先でドライブする際、街の音や風の匂いを感じるのが好きなのですが、鎌倉の空気は非常に淑やかで落ち着いていました。道幅は割と狭く、高い建物もありません。適度に観光地化されているようで商店街には小洒落たコーヒー屋さんやラーメン屋さんなどが並んでいました。駐車場の料金も名古屋駅近辺と比べると少し安いかな。適当なところへ車を駐めて、イルプレドロとの約束の13時まで40分ほどあったのでまずは腹ごしらえから。

THE BLISS BURGERというイルプレドロから歩いて3分ほどのお店でハンバーガーを頼みます。ポテトやサラダ、冷製スープとアイスまで付いてきて炭火焼きのパテと自家製のピクルスのコントラストが楽しく大満足。カウンター席であっという間に平らげます。

食後の散歩にもならない距離を歩いて早速お目当てのお店へ。1階はコマヤシューズというイルプレドロと同じ会社の経営する既成靴メイン(それもレディースかな?)の店舗で、ビスポークやパターンオーダーを受け付けているイルプレドロは2階です。神座健次さんという職人さんのブランドですが、コマヤ自体は1939年に「入舟」という屋号で始まり先代から3代に渡って引き継がれてきた歴史あるお店です。店舗自体は綺麗になっていますが、いわゆる「街の靴屋さん」として鎌倉の人々から愛され続けてきたのでしょう。

2階へ続く階段にディスプレイされているのはサイドレースに変形ウィングのついたビスポークサンプル。事前に色々と調べている中で、サイドレースのデザインが得意だというようなことが書かれていることが多く今回は私も挑戦してみたいなとある程度当たりをつけてきていたので、一気に胸が高鳴ります。さあ階段を登ってイルプレドロの店内へ。

広々とした店内で、youtubeで拝見した通りとても優しく真面目そうなイルプレドロの職人・神座健次さんとご対面。「わざわざ愛知からこんなご遠方まで、ありがとうございます。すぐにコーヒーを準備しますね」と淹れてもらっている間、許可を得て店内のサンプルを撮影させていただきました。イルプレドロでは大きく分けて2つの注文方法があり、木型から製作しデザインも希望があればアップチャージで自由に作成できるビスポークと、決まった23種のデザインの中からベースとなるラストを使ってグッドイヤーウェルテッド製法で作られるパターンオーダーとがあります。パターンオーダーのラインはベースが国産の革、続いてステッドのスーパーバック、私のStaffordと同じブレターニャのアリゾナ、アノネイのボカルーにデュプイのマローカーフ、さらにはコードバンや手染めのパティーヌレザーなどが用意されています。国産革のPOはグッドイヤーで脅威の6万ちょっとと、びっくりするくらい安いです。

早速、まずはベースとなるデザインを選んでいきます。元々考えていたのは外羽根のサイドレースor外羽根のショートウィングチップの2択でしたが、ショートウィングは好みと違う感じだったので除外し、代わりにとても綺麗に仕上がっていたウィングチップの2種を候補に挙げます。右のブラウンはトゥのメダリオンのないアノネイボカルー、真ん中は国産のネイビーのキップにブラウンのシューレースが配された洒落た一足でした。思ったよりもボカルーとネイビーの国産には品質さが無いように感じましたが、やはり比べてみると新品の状態でも若干アノネイの方が革の表情が見える透明感のある仕上げになっています。サイドレースも素敵ですが、やはり実用面で飽きて使わなくなるのは悲しいなと今回は無難に右のデザインかなと半ば決めかけたのですが、、、

ふと、テーブルに置かれた3足のサメ革を使ったサンプルが目に入ります。神座さんによると「気仙沼で水揚げされたヨシキリザメを長野のタンナーが鞣したもので、少し前から取り扱い出来るようになったのです。革小物で使っているところはありますが、靴は今のところうちだけかもしれません」とのこと。現在Sewnにお願いしているUチップもブラックのサメを選びましたが、それはインポートのシャークだったので国産のヨシキリザメには私はこの日初めて触れました。見た目に反してとても柔らかく履き心地も良さそうです。

中でもこの、バーガンディっぽいブラウンのヨシキリザメで製作されたパンチドキャップトゥのサンプルには抗いがたい魅力を感じました。革の魔術師と呼ばれたステファノベーメルのもとで修行された神座さんらしいデザインと素材の組み合わせでもありつつ、佇まいはどことなくローマのマリーニのようにも見えます。ウィングチップと迷いましたが、今回はほぼこのサンプル通りでオーダーをすることに。パターンオーダーであってもいつも必ず自分らしくカスタマイズしてしまう私ですが、こちらに関しては細かい部分で違いはありますがほとんどこのまんまで。

靴のオーダーをする際はサンプルシューズを机の上ではなく(もちろん許可を取ってから)足元に置いて遠目に眺めてみないと、実際の使い勝手が見えてきません。特に私はコレクター気質がなく、全ての靴を現役で履きたいタイプの人間なので、自分のスタイルにちゃんとハマるかどうかが非常に大切なのです。こうしてみても、どうでしょう、装いを選ばずに使いやすそうな一足に仕上がる予感。

ヨシキリザメの革は個体差がかなりあるらしく「実際に見て選んでいただいた方が良い」と神座さんがアドバイスをくれて、アトリエにあったストックを見せていただきました。左のようにシボが大きめの表面がふっくらした感じの革は所謂“銀浮き”の症状が出やすいとのことで、今回はより繊維の引き締まった右のような革を使ってもらうことにしました。革の取り方も縦方向に取るか横方向に取るか選べるようですが、私はサンプルと同じく縦で。大体どれも20デシくらいの革で、これでちょうど片足分が取れるか取れないかくらいです。

デザインや革が決まったら、より細かい仕様について神座さんと相談しながら決めていきます。これがまず驚いたのですが、パターンオーダー内で選ぶことのできる変更点の数が非常に多いこと。コバの目付の有無やヒールの角度、アッパーのステッチ色までありとあらゆる点が変更出来たような感覚。私はソールまわりを若干サンプルとは違う仕上げにし、インソックの箔押しのブランドロゴも素押しに変えていただいたりしましたが、おそらく見比べないと分からないくらいの差に収まる程度の変更に留めました。せっかくサンプルを見てときめいたのに、手を入れすぎて全然違う雰囲気になってしまっても嫌ですからね。

じっくり神座さんとお話をしながら詳細が決まったところで、いよいよ採寸に移ります。「足と靴と健康協議会」という一般社団法人があることを私はこの日初めて知りましたが、そこの計測用具が具合が良くてずっと使っているとのことでした。台の上に乗ってサイズを測っていただきます。こちらもパターンオーダーとは思えぬほど丁寧さで驚いてしまいました。「オーダーは慣れていらっしゃいますよね」ともちろんお見通しでしたので、いつも調整していただく部分などを分かっている範囲でお伝えしていきます。

続いて採寸結果を元に、神座さんがフィッティングサンプルの中から合いそうなものをいくつか持ってきてくれます。これもすごいことだと思いましたが、パターンオーダーでもウィズはD〜3Eまでは少なくとも揃っており(もっとあるのかもしれないけど聞きそびれた)、それを各サイズでサンプルとして準備するわけですから大変な設備投資です。さらには私の場合でいくと甲や小指周りにはいつも革を足して調整してもらうのですが、イルプレドロではこういった木型の「乗せる方での」修正に関しては全て基本料金内に含まれているというのです。私が「普通どこでも一箇所いくら、って調整代取られると思いますよ」とお伝えすると「僕自身が結構、合いにくい足でして。。。だから、辛さを分かっているので出来る限りのことはしたいなって」と神座さんから答えが返ってきました。最初に見た印象通りの、とにかく優しい人です。乗せる調整だけでなく、ヒールカップとトゥ付を重視して選んだサンプルを履くと羽根がほぼ閉じ切ってしまっていたのですが、これについても「ちょうど良い感じで型紙を修正して作らせてもらいますね」とまさしくこれが本当の神対応。

ちなみにフィッティング中に脱いでいたBoleroのビスポーク靴を見て、神座さんは「そちらはボレロさんなんですね、少し見せていただいても良いですか」と手に取ってじっくりと眺めると「いやあ格好良い靴ですね、こういう良い靴をお見せいただくと自分も頑張らないとと刺激になります」と仰っていました。仲間が褒められたような感覚で私までなんだか少し誇らしい。

イルプレドロについての情報があまり出てこないのでどんなところなんだろうと内心不安が無いわけではなかったのですが、神座さんの素晴らしいお人柄と丁寧すぎるほど丁寧な接客で安心してオーダーすることができました。「メディアに出たりするのがあまり得意ではなくて笑」と恥ずかしそうにされていましたが、私がブログを書いている話などをして掲載の許可をいただきました。靴の完成は2月末頃の予定です、郵送にしてもらうか取りに行くか悩みますが、ご興味のある読者さんがいれば是非一緒にご案内したいところ。2~3名限定で鎌倉ツアーでも組もうかしら、とにかく完成が楽しみです。神座さん、本日はお忙しい中誠意あるご対応をいただき、ありがとうございました。

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