T.SHIRAKASHI Bootmakerとの出会い

Shoes

イルプレドロで予定していた以上にたくさんお話しさせてもらって、白樫さんと約束の時間より30分ほど遅れて次は横浜にやってきました。鎌倉を出る際に遅れる旨を連絡し、今日はお尻が18時と聞いていたので16時からの約2時間。ずっとお会いしてみたかった方なので、ハイアットリージェンシー付近の打ち切りの駐車場に駐めてインペリアルビルへと急ぎます。

あったあったありました、外観は少し古びた雑居ビルのように見えますが、中に入ると非常に趣のあるレトロモダンなビルで、案内を見ると白樫さんのアトリエは5階。階段を一歩ずつ登っていきます、写真を撮り忘れましたが踊り場には小学校の理科室の前にありそうな手洗い場が備え付けられていました。

5階に辿り着き扉をノックすると、思い描いていたよりも柔らかい白樫さんの声が聞こえます。入室するとそこは思ったよりもコンパクトで、理路整然としていて、拘りが詰まっていて…まさに白樫さんの作る靴そのものといった感じのアトリエです。この日の夜はインペリアルビルに入る店舗の方々と忘年会のようで、ビル全体に漂う一体感は、ハード面だけでなく皆様の協力的な体制が作っているものなのかもしれません。

初対面ですが、kinoさんやFoggy&Sunny中川さん、Boleroの渡邊さんなど共通の友人知人を介して私のことは伝わっているようで。「ブログ、読ませていただきました。富山旅行記がとても面白かったです」とまさに憧れの中川さんに会いに行った日の記事を気に入っていただいた様子。白樫さんはFoggy&Sunnyとレスレストンで定期的にトランクショーを行われています。私はFoggyでのトランクショーが始まるよりも前からT.SHIRAKASHI Bootmakerについては知っていましたが、本格的に興味を持ってチェックし始めたのはやはり中川さんがきっかけだったように今となっては思います。

「戦後、米軍将校の宿舎としてこのビルは使われていたそうなんです、あとでご紹介するつもりの同じビルのテーラーさんが紹介してくれて」と白樫さんもコーヒーを淹れてながら教えてくれて「今日、飛田さんの時計してみえるのですよね、少し拝見しても良いですか」と私のTYPE1Cをお渡しします。白樫さんも相当時計がお好きのようで「私の師匠(福田洋平氏)が持っていて、私も欲しいなあと思っているんですよ」とじっくりチェックされていました。元々グラフィックエンジニアだった白樫さんは遅咲きの職人さんで、お子様が生まれる前に「やるなら今しかない、絶対に不自由はさせないから」と奥さまを説得されて靴職人の道へ。独立される際に福田さんからは「自分にしかないカラー方向性を早く見つけるといいよ」とアドバイスを受け、一体それは何なのだろうと考えた末に、ご自身の趣味であるフライフィッシングに履いていけるカントリーブーツが欲しいと感じたことからブーツ専門のビスポーク職人として生きることに。当初は本当にブーツ以外はお断りしていたようですが、お客様のご要望に応じて最近では徐々にオックスフォードの靴もラインナップに入っているという流れ。

私もずっと見たいと思っていた白樫さんの靴のサンプルを手に取って見せていただきます。レスレストンでのトランクショー直後ということで間に合うか微妙なタイミングでしたが、ちょうど荷解きが終わって並べたタイミングでの来店、我ながら本当にツイています。やはりなんといってもブーツの印象がありますが、オックスフォードも「都会でも使えるカントリー」といった雰囲気で重厚感があります。Boleroの渡邊さんは白樫さんについて以前「クオリティの鬼」と評されていて、並ぶサンプルはどれも実用品としての完璧さを追究された結果生まれる独特の美しさが際立っています。

T.SHIRAKASHI Bootmakerでは現在、ビスポークとパターンオーダーの2種類が展開されていますが、お客様との対話の中で大半はビスポークにされる方が多いそうです。結局値段差がそれほど開いていないので「せっかくなら勿体無いからビスポークで」となるとのこと。kinoさんがインスタグラムで詳しくアップしてくれていましたが、白樫さんの仮縫いはちゃんと靴として履けるように作り込まれていて、履いた状態で1~2ヶ月、雨でも雪でも関係なくガンガンお客様に履いていただき、その結果得られたフィードバックをもとに最終の完成品が仕上げられます。言わば同じ仕様の靴を2回作るようなものですから、そう考えると白樫さんのビスポークの価格は「高いけど安い」となるわけですね。かけられている手間を考えればもっと高くても良いはず。お客様というよりも、きっと白樫さん自身が妥協を一切許せない性格なのでしょう。

それでもです、せっかくなかなか来られないアトリエに辿り着いたのだから、MTOの木型でも私の足に合うのかどうか、今後のために確認してもらっておこうかなと。高いけど安い、でも無い袖は振れないですから、完全な興味本位といつかのオーダーのための情報収集のつもりでしたが「サイズはおいくつですか」という質問にUK6.5だと答えると「ぇ。じゃあ一回、これを履いてみていただけますか」と出てきたのが、MTOの本来のサイズゲージではなくこのブーツだったんです。

基本的に今の時点ではブーツはビスポークで請けられている白樫さんですが、2013年に独立されてから10周年記念でスタートするはずだったグッドイヤーのMTOのブーツのために作られたサンプルがこのゾンタの銀付きスエードとゼニスカーフという今はなき超上級革のコンビだったわけ。ゼニスカーフはこの日の白樫さんが履いていた靴にも使われていて「質感がカールフロイデンベルグに似ている」とのこと。フロイデンベルグの素晴らしさは夏にゲットしたKOKONが教えてくれましたから、それに似た革という時点で間違いなく良い革なのは分かります。ジーンズとの合わせも完璧です。

で、驚いたことに、履いてみたらぴったりなんですよサイズが。それもそのはず、これはサンプルとして作る予定の個体だったのですが、白樫さん自身が私と同じUK6.5だったんですね。これまで使っていなかった新しい外注先に底付けを依頼したところ一部アッパーに傷が付いてしまい、しかしそこはグッドイヤーではなくハンドソーンであれば見えなくなる部分だったので「時間のある時にハンドソーンに直して、ECサイトで売ろうかなと思っていたんです。けど・・・うーんピッタリですね、サイズ」と私の足にこれ以上ないほど合っている。なんだこれ。しかも私が緑好きなのを見越していたかのように、白樫さんのアイコンであるフライフィッシングステッチもグリーンで入っていて、さらにはライニングまでもが緑。これは・・・間違いなく私、出会っちゃったんじゃないの

もっと掘り下げて聞いてみると、白樫さんも10周年ということは私のブログが始まった頃とほとんど時期を同じくしている点や、東北出身で復興支援の一環でビスポークのオーダーをもらったのが初めてだということなどが分かります。「(ブログを)10年以上続けるってほんと凄いですよ」と、10年愚直にビスポーク靴職人として続けてこられた白樫さんに言われるとより一層嬉しい。さっきイルプレドロで気仙沼のサメを頼んできたところなのに、なんだか今日はやたらと東北と縁があるなと。それにどちらもパンチドキャップトゥです、今手元に残っているコレクションでは意外にもひとつも持っていなくて。(過去に履き潰したサンダースのみが黒のパンチドキャップトゥでした)

勿論ビスポークではありませんから、土踏まずの部分に僅かなシワが入るものの(白樫さんが気にしてただけで私は全く問題とは感じない程度)、そもそもこういうMTOブーツの受注もまだ正式に始まっていない中、こんな奇跡が起こることはもう二度と、私に限らず他の誰にも無いでしょう。それに「この一足でなくてはならない理由」が多過ぎるのです。もう手に入らないゼニスカーフは勿論ですが、3点式シューツリーの金具も、鳩目も、全て英国製。国内では白樫さんが満足のいくクオリティの部材は手に入らないようですが、シューツリーの金具に関してはこちらももう入手不可とのこと。2025年1月にいよいよ完成予定のFugeeのバッグにも間違いなく合いますし「ソールもハンドソーンでやり直した後、グリーンで仕上げようかと思っていたのですよ」とまで言われれば、もう運命かなって。

ハンドソーンに作り直しをする必要がありますから、仕上がりは手の空いた時に進めていただいていつでも大丈夫とお伝えしました。「来年の冬に履けるように」と仰ってくれたので、私は1年後までにこの大物を迎えるいろんな準備をしなければ。記念にこのブーツと私のBolero、そしてこのBoleroをオーダーする際に参考写真として持っていった白樫さんのMTOの一足を並べて撮影。渡邊さんの靴はどなたに見せても「本当にカッコいいですよね」と言ってもらえます。渡邊さんと普段から交流がある白樫さんも「渡邊さん、ほんと良い人だよね」と仰ってました。

インペリアルビル忘年会の時間が近づいてきましたが、そういえば渡していなかったと本業の名刺と、ついでに自慢のFugeeの名刺入れを見ていただきます。「この製法…靴でいうスキンステッチですね、味が出ていて良いですね」とFugeeのものづくりにも感嘆されたご様子でした。

「今日ブログの方が来られるから紹介するよって下のテーラーに伝えてあるんです、ちょっと行ってみましょう」とこの時点で忘年会まで15分ほどしかありませんでしたが少しだけ見学。3階のテイラーグランドさん。

長谷井孝紀さん。元々このビルを白樫さんに紹介してくれたのも長谷井さんだったようです。私の大好きなFumiya Hiranoと長谷井さんは修行時代の兄弟弟子で(この部分、誤った表記となっておりました。白樫さんによると「長谷井さんがTAILOR Caidで修行していたときの兄弟子がLID TAILORの根本さんで、その根本さんの元で渡英前に修行したのが平野さん」とのことです。お詫びして訂正致します)先週もフミヤさんと会われていたようです。快活な方でお話しも面白く、何者かよく分からない私にも親切に接してくださいました。

白樫さんのアトリエと比べるとかなり広々としたテーラーグランドには仮縫いのジャケットや大量のバンチ、30年前にロンドンで仕立てられたヴィンテージのジャケット、「始めようと思って買ったんだけど全然手がつけられなくて笑」というトランペットまで、そこはまさに男の子の秘密基地です。トランペットがきっかけとなり私が何故にオボイストというペンネームなのかも説明しました。

レスレストンで白樫さんは、このタバコカラーのヘビーなコーデュロイでサファリジャケットを頼まれたそうです。「寒いからあったかいやつで」と選ばれたようですが、まさに白樫さんのカントリーブーツと相性抜群。

私が穿いていたフミヤヒラノのパンツを見て「キャバジン僕も大好きなんですよ。最近僕もとある先輩に教えてもらったんだけどね、コットンのギャバジンはコットンギャバジンで良いんだけど、ウールのギャバジンはただの“ギャバジン”が正解なんだって。ウールギャバジンって言いたくなるけど、それだと“頭痛が痛い”みたいになっちゃうと。そんなことって、なかなか上の世代の方しか分からないよね〜」と教えてくれました。私も完全にこの生地について、ハーディミニスのウールギャバジンと呼んでた気がする。そこで聞いていた白樫さんが「ボックスカーフというのも本来はカールフロイデンベルグの黒のみのことを指す言葉なんですよ、“茶色のボックスカーフ”というのは本来存在しないはずなんです」とこれまた勉強になるお話しを。やはりこうして先輩方と直接会ってお喋りしているだけで非常に勉強になりますね、いくらネットで調べていたって分からないことはたくさんあるはずです。

「長谷井さん、オボイストさんと僕の写真撮ってよ、僕も撮るから」と白樫さから各2ショット撮影会を提案。私のニヤケ顔が、この時間がいかに素晴らしいものだったかを物語っていますね。

名残惜しいですが時間もオーバーしてしまっていたのでこの辺りでお暇です。次回はブーツの納品時か、白樫さんが名古屋に来られるタイミングか。「近くにフォギーの中川さんが来ると必ず行く餃子の美味しい店があるよ」と教えてもらっていたので一人で行ってみました。水餃子を食べましたが、これが絶品で思わず妻用にもテイクアウト、味にうるさい妻ですがとても気に入って食べてくれました。

と、いうわけで、またしても靴の神様がもたらした運命の悪戯により私はそう遠くないうちにT.SHIRAKASHI Bootmakerのブーツのオーナーになることに。まだ始まってもいない2024年のベストバイはこれなんじゃないかという予感がビンビンしていますが、皆様も是非納品編の記事を楽しみにしていてください。白樫さん、長谷井さん、この度はお忙しいところご案内いただき、ありがとうございました。また必ず、今度はもっとゆっくり遊びに行きます。

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