THE TRUNK BY OBOIST KOKONトランクショー“おかげさま” 初日編

Diary

またしても私にとって特別な思い入れのあるブランドのトランクショーがTHE TRUNK BY OBOISTで開催されました。最初の一足として妻の誕生日プレゼントにホールカットをオーダーをしてからはもう13年が経とうとしている、金沢の名店・KOKON。来年で30周年になるKOKONの小紺浩良さんが、今回ブランド初となるトランクショーをTTBOで開催してくれました。私がどれだけKOKONの靴が好きかはブログでも過去に何度も書いている通りですが、私が年末にTTBOを始めると決意した途端に1月1日、能登半島で大きな地震がありました。小紺さんもご出身の輪島で大きな被害があったこともあり「私が店を構えることで何か小紺さんの役に立てることはないか」とずっと考えていて、金沢を訪問した際に企画したのがこの度のトランクショーでした。詳しくは4月の記事をご覧ください。

早朝に金沢を出発されて三河安城まで車で来てくれた小紺さん。「思っていたよりすごく近くて」と早めにご到着されたので、新幹線駅内のカフェで少し一緒にお茶をしてからいざTTBO入りです。今回のトランクショーはもちろんオーダーをお受けすることも可能でしたが、せっかくなら少しでも金沢KOKONの雰囲気を再現したいと考え「レディース以外は一部のサンプルを片足ずつ並べて、ご試着の様子を見て小紺さんがこれはと思う秘蔵のワンオフ品を奥の部屋から持ってきてご提案する」という形を取りました。私がカールフロイデンベルグのLiverpoolを手に入れた時も、奥の方の部屋から小紺さんが出してきてくれた特別な一足でしたので、TTBOでもお客様には同じように体験をしていただこうと。

前日、たまたまあまり使っていないfacebookを開いてみると、10年前と11年前の7月14日の写真が出てきました。KOKONのStaffordもコードバンの422も、手に入れてから随分と長い時間が経ったのだなと改めて思い知らされます。去年私を初めて金沢KOKONへ連れて行ってくれたキノさんにトランクショー開催について報告のLINEをすると「高級レストランでシェフのオススメの料理を食べるように、小紺さんイチオシの靴をもらって帰るという特殊な文化を受け入れられるか、オボイストさんの腕の見せどころですね」と連絡をいただいたのですが、これがまさしく言い得て妙。ご来店の皆様にはもちろん、小紺さんにもいろんな良い気持ちを抱いて帰っていただければと私も気合が入っていました。

ちなみにこの日私が履いていたのはKOKONのStaffordです。初めて小紺さんとお会いした日と同じく、お互いにショルダーカーフの靴でした。私のは10年モノ、小紺さんのは20年モノです。小紺さんが持ってきてくれた靴の中にはショルダーのStaffordもあり、お客様が選ばれる際の参考になればと。

最初にお越しいただいたのはご夫婦でいつも応援してくださるS様です。元々ご予約をいただいており「在庫の特別な靴があったりしたら買っちゃうかも。。。」と伺っておりましたので、事前に小紺さんにはサイズを伝えていくつか見繕ってもらっていました。(後から考えるとこれが良くなかった。Sさんは私の靴を何足か引き取ってもらっているくらい足のサイズが近いので、Sさんへオススメ出来るアイテムはそのまま私自身でも履けるものばかりだったのです)

Sさんがこの日履いてきていたのは名古屋のセレクトショップ・ロマンツォ別注スピーゴラ。ロマンツォも店主の個性が爆発しているショップで私も大好きな空間ですが、小紺さんも興味津々で手に取って「いやぁ、こんなに釘打つんですね〜」となんだか嬉しそう。

いくつかのサンプルを見ていただいた中から、Sさんが最終的に選んだのはサンドベージュの銀付きスエード(名前忘れちゃった・・・もう今は手に入らない革で作ったデッドストック)のシングルモンクストラップ。私が私物用に狙っていた靴が何足かあったのですが、これもその筆頭。ブルーデニムと合わせた組み合わせがハマりすぎていて「本当は仕事で履くための靴をと思っていたんだけど」と少し悩まれるご主人を「絶対これじゃん!完全にあなたの好きなやつじゃん!」と奥さまが猛プッシュしてくれて、お買い上げいただきました。奥様にもレディースのサンプルをいくつか用意していたのですが、在庫のある中では少しサイズが小さくて靴を断念。その代わりに「きっと気に入ってもらえるはず」と思っていた時在服飾設計のTOBARIを提案し、生地の色をネイビー、ボタンの色を黒蝶貝、サイズを微調整してオーダーしていただきました。

小紺さんの接客スタイルは本当に独特です。ブラシひとつ紹介するのにも、どんなにたくさんの人の思いが凝縮されているのかということをゆっくり、温かく説いていきます。“売る”というそぶりが全くといっていいほど見えずに、お客様もただただ聞き入ってしまって、気がついたら「これもください」と口から言葉が溢れてしまうような。私もTTBOのために作ったアイテムにはどれも非常に思い入れがあり、バックストーリーのご紹介はなるべくするようにしています。ただ結局根底には「とにかくまず使っていただきたい、そうすれば分かるはず」という意識が寝転がっていて、7割は説明、3割売るモードくらいのバランスになっていますが、小紺さんの場合10割説明説明説明。そしてその間、すべての思い出を懐かしく愛おしみ、笑顔。もちろん時と場合によるのだとは思いますが、今回のトランクショーで小紺さんの仕事っぷりを見て「これが人情ってやつだよな」と何度も感じました。

オープニングイベントの時などいつも長野からわざわざ駆けつけてくれるI様。この日もSHINYA中心のコーディネートで、他の方と同じくふむふむと小紺さんの物語りを聞いておられましたが、試着したStaffordがどうにも足から離れない。TTBOでたくさんお買い物いただいていることも、この日がSHINYAの受注アイテムの期日だったことも分かっていましたが、悩まれた最後には「こんな機会、もう無い気がする」とご購入いただきました。私が10年履いていても全く飽きがこない大好きなモデル、大好きな革の組み合わせでしたので自信を持ってオススメしました。

「オープンの時、時在シャツの受け取り時、そして今回と毎回とても楽しい時間をありがとうございます」と嬉しいお言葉をいただきました。これからもStafford SHINJAとして一緒にTTBOを盛り上げていただければ嬉しいです。

そしてIさんがStaffordを試着されている間に到着していたのが我らが汗だくさん、そしてプライベートな時間でマルヤスのアトリエを訪問していたaldexの村松工場長と岩田工場次長が登場です。汗だくさんについては事前にご来店されることを伺っていましたが、aldexの二人は前日「もし時間あれば小紺さんに会いにきてください〜」と声をかけたところで本当に来てくれるとは思っていませんでした。「コンビニ行くくらいの感覚で来ました笑」とすでに来慣れている岩田さん。小紺さんも私と同じく職人さんのことが基本的に大好きなので、スーツの職人である二人との交流は非常に良い刺激になったそうです。その結果については後ほど・・・♩

元々KOKONトランクショーが決まったと報告し、予約フォームを開設したら30秒ほどでご予約いただいていた汗だくさん。私は他のお客様の接客もあり奥の部屋で小紺さんにある程度任せていたのですが、ギラギラした眼でこちらに向かってきたと思ったら「決まりました、2足」とまさかのダブル買いが決定していました。この方のポテンシャルたるや、恐ろしいものがあります。この日はこちらも2着同時オーダーをいただいたTTBOスーツのうちの1着、スミスウールンズのソラーロスーツをお召しでしたが、それにぴったり合うこちらのプレーントゥはなんとカールフロイデンベルグ。作られてから何年も経過しており小紺さんの言葉を借りれば「革が痩せた状態」となっていましたが、汗だくさんの足には実はこの状態だからこそ上手くフィットしたのだと後から説明してくれました。底光りするアッパーから上質さが伝わってきます。アデレードはブローグシューズのイメージがありますが、革の良さを堪能できるプレーントゥと非常に相性が良いように感じました。

そしてもう一足はマシンメイドラインのコンビネーションシューズ。これに関してはもう、荷解き時に見てから「これを履きこなせるとしたら、汗だくさんくらいしかいない」と思ってはいましたが、履いた瞬間に小紺さんも靴と汗だくさんとの相性の良さを確信したそう。「2足で〇〇円で大丈夫」と小紺さんから魅力的な提案があったようで、うーんと悩む様子などもなくその場で即決断されていました。今回は全体的に、金沢KOKONの裏部屋から持ってきてもらった秘蔵靴ばかりでしたので価格設定はその都度小紺さんが計算機を叩いて算出してくれていました。「そうだね、今日は“シンデレラ”だもんね」と結構なサービスをしてくれていて、皆さん大満足。今回のイベントはまさしく一期一会、お互いに縁を繋ぎたいですから双方が幸せになってくれたら私も本当に嬉しいのです。

と、汗だくさんがW買いをしている裏側では、今度はコンビニ感覚でTTBOに来たaldexの二人が何やら頭を抱えています。岩田さんも村松さんもそれぞれ“運命の一足”を見つけてしまったようです。今回はご予約いただいた方向けのサイズの在庫を中心に持ってきてもらっておりましたので、足のサイズが小さめのお二人に合う靴は無いだろうと思いきや・・・

デュプイではなくアノネイのマローカーフを使った10分仕立てのストレートチップは細かく縦に走る独特なシボにより見るからに普通ではない雰囲気を放っています。実は岩田さん、とあるイベントに向けて黒のストレートチップを探していたそうでして、これ以上ないタイミングで、これ以上ない靴に出会ってしまったことになります。あまりにも岩田さんの足にフィットしすぎていて身震いするほどでした。

この写真だと表情が分かりやすいかもしれません。黒のストレートチップ、もちろん冠婚葬祭にはこれが一番ですが、この革であればこの日岩田さんが穿いていたような少しフレア気味のパンツなどに合わせても面白いかもしれません。岩田さんが迎えに来るのをじっと待っていたかのような面構えです。

一方で村松さん。いくつかの靴を見たのちに、この日一番の隠し玉として奥の奥へと仕舞っておいたこちらが遂に・・・。ブラックのカールフロイデンベルグ、Uチップのシングルモンクです。「最強の一足」としてここぞの場面でしか出したくない(だって私のサイズでもあるから)くらいの雰囲気を持ったこの靴は、村松さんがしげしげと眺めて「なんだこれは・・・やばい」と大興奮。その様子に小紺さんも「みんな革が好きなんですねえぇ」と感心しながらフィッティングをチェックします。

スターリングシルバー製のハンドメイドバックルには小さく“KOKON”と刻印がされています。「昔こういうガットの靴でこういうバックルを見ましてね、シンプルイズベストだなとうちでもやってみたんですわ」と小紺さんが語る通り、市販品では出しえない絶妙な揺らぎを持ったバックルです。カールフロイデンベルグの良さは私物のLiverpoolで体感していましたから、村松さんにもこの革の素晴らしさを訴えます。小紺さんが昔この革を入手したのは本当に偶然というか、当時はフロイデンベルグということをよく知らずに買ってあったそうです。こういう幻の一足と出会えるのも今回のKOKONトランクショーの醍醐味。

小紺さんは村松さんが試着している時に、より高いフィッティングを提供するために“なすべきことが見えた”そうで、両足ペア揃ったこの靴も一度金沢へ持ち帰って、村松さんのためにやれることをすべてやってから郵送してくれることになりました。左から村松さん、岩田さん、長野のIさんが購入されたハンドメイドラインの至宝たちです。

そしてなんとなんと、小紺さんは小紺さんでお二人と交流しているうちに「自分もスーツ、誂えてもらおうかな」と急遽スーツをオーダーしてくれることになりました。岩田さんと村松さんに協力してもらいながら、いつ以来か分からないほどしばらく振りのスーツを小紺さんのために・・・TTBOスーツは特に力を入れて開発したアイテムの一つなので、それを小紺さんが着てくれるなんて私にとってみれば最高の喜びです。

サイズゲージを着た小紺さん。いつもジーンズのイメージがありますが、とても凛々しくて格好いいです。生地はその場に居合わせたみんなで考えて「単体使いもしやすくてエイジングが楽しめるコットンスーツが良いのでは」という流れからW.BILLのpure cottonの茶色になりました。小紺さんの渋い雰囲気に絶対によくお似合いになるはずです。

「いやあ、いいもんですねぇ。自分がこうやって測ってもらうことなんてほとんどないもんだから、靴をオーダーされる時のお客様の気持ちが今わかったような気がします」と非常に喜んでくれました。仕上がりは9月半ばの予定ですが、実は小紺さんとは9月にもう一度金沢でお会いすることになりそうなので、その時に仕上がりの具合をチェックさせていただきたいなと思っています。

コワテブ(KOKON輪島塗手植えブラシ)についてもお客様からとても好評で、靴と一緒に買って行かれる方が何人もいました。一つひとつ輪島塗の個体差がもちろんありますので、どの個体が良いのかをトーナメント製で在庫の中からじっくりと選ばれる方もいました。私も馬毛のコワテブを使っているのですが、完全乾燥しない漆のおかげで手に吸い付くようにフィットし気に入っています。TTBOのアンティーク家具らと並んでも全く見劣りしません。

この日沖縄から名古屋に戻ってきたばかりだったさとしさんは「なんとしても小紺さんに会いたい!」と忙しい中沖縄土産を片手にご来店いただきました。用事の合間だったこともあり小一時間で一度退店されましたが、後で再度ご来店されてじっくりと小紺さんとお話しされていました。最近時計にハマって立て続けに購入されていたこともあり「めちゃくちゃ欲しいけど靴は・・・でもコワテブ、これは買います!」と馬毛をお持ち帰り。さとしさんも輪島塗トーナメントを開催されて、ご自身が一番良い!と思う個体を選んでいました(ブラシ自体はどれも素晴らしい仕上がりで当たり外れなどはなく、単に好みの問題です)。

この日最後のご来店は仕事帰りのとーるさん。ご注文いただいたTTBOスーツの納品と、お手持ちのスーツに関してのご相談をいただきました。偶然KOKONトランクショーの日だったというだけで靴を見る予定はなかったのですが、ずらりと並ぶコレクションを前にサイズの合うものを試着してもらうことに。ちなみにスーツについてはハリソンズのオイスターでオーダーをいただき、非常に良い仕上がりでした。

そんなとーるさんが履いてしまったのは、ハンドメイドラインのフルブローグのコードバンです。ブラックのヘリンボーンスーツを頼まれたとーるさんに、ブラックのフルブローグが合わないわけがありません。それも昔の質が良かった頃のコードバンを使った個体ですし、360°ウェルトのダブルレザーソール、ストームウェルト付きと迫力満点。すらりと長い手足のとーるさんは醸し出す雰囲気がどことなくモードで、足元にボリュームのある靴を置くともはやショーのモデルのようです。

全く想定外の出来事でとーるさんも一旦は試着されていた靴を脱いでスーツのご相談に戻ったのですが「どうしてもあの靴、気になります」と再度足入れをしたところで決心が固まったよう。小紺さんの思い切りの良いご提示もあり、結局コワテブとセットで最高級の一足をゲットされていました。

怒涛の一日はあっという間に過ぎ去って、振り返ってみると7足もの高価な靴が瞬く間に持つべき人の元へと旅立って行きました。このトランクショーは「とにかく小紺さんを元気にしたい!」という私の勝手な想いから始まったわけですが、ご来店いただいた皆様のおかげで小紺さんは本当に感動してくれて、お客様とお話しする際にも目に光るものが浮かべた表情も時折見られました。みんなが帰られたあと、小紺さんはすぐさま私の肩に手を当てて「いやあ〜なんですかこれはぁ!あまりの熱狂にどこの世界にいるのかと思いましたよ!とりあえず座って座って、いやあ・・・」と感慨に浸りながらこの日の嬉しかったことをたくさん私に聞かせてくれました。その時間、私がどんどん心が潤っていくのを感じました。

「こんなにたくさんの人とのご縁をいただいて、本当にありがとう。これでね、来月東京ミーティングでみんなに会ったら“あのときの靴が売れたよ”って高野や常世田、コウちゃん(whenの小林さん)やジェームス(ジョーワークス)に報告すると、みんな絶対、盛り上がるんですよ。“ええ〜そんなに売れちゃったんですかあ!”ゆうてね、みんなの自信とモチベーションに繋がるわけです。これで無くなった在庫を補充するためにまた職人にオーダーすると、きっと一生懸命作ってくれるんですよ。」と小紺さんが仰っていました。私が目指す世界も、そうでありたいのです。お客様が喜んでTTBOでいろんなオーダーをいただいて、いただいた利益をまたいろんな職人さんに還元して、その繰り返しで生かされていく。TTBOがこれからしていきたいことを、小紺さんはずっと前から続けられてきたのです。そんな人生の先輩に感謝の言葉をいただいて、私は今回も心から「決心して、よかった。」と感じ入ったのです。(夜の打ち上げ&二日目編についてはまた後日)

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