瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』
そして、バトンは渡された | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
発売日:2018年2月22日
形態:単行本
ページ数:372
オススメ度:★★★★☆
ミステリーやSF、クライムサスペンスなど、ハラハラするストーリーの小説を読むことが多いですが瀬尾さんの本はその真逆で、心がほっこりするようなストーリー。
主人公の優子は、死別や離婚など様々な理由で、母親が2人、父親が3人いる。
優子を産んだ最初の母親は幼い頃に交通事故で亡くなっていて、血の繋がった父親は二人目の母親と再婚。父のブラジルへの転勤を機に夫婦は離婚、まだ子供だった優子は友達や日本での生活を優先して二番目の母と二人で暮らしていく。そのうちに二番目の母は二人目の父、三人目の父との結婚・離婚を経て、どこかへ行ってしまう。優子は血のつながりもなく、母と2ヶ月間一緒に暮らしただけの三番目の父・森宮さんと生活をしていくことになる。
・・・と、ここまでの設定だけ読むと、大人の都合に振り回されて辛く寂しい、親の愛を知らない可哀想な少女の物語になりそうなところを、全編を通して優子はちっとも可哀想ではない。
どの親も心の底から優子にそれぞれの形の愛情を注ぎ、大切に育ててくれる。何度も苗字の変わっている優子を案じ、学校の先生やスクールカウンセラーまでもが「何かあったら言うように」と優子に声をかけてくれるが、まるで悩みなどなく平凡な毎日を送っているだけの優子には悩みがないことが悩みに思えてしまうくらい、森宮さんと“普通に”暮らしているのだ。
親が変わったり血の繋がらない父親と二人暮らしをしたり、一般的には・・・少なくとも私には、なんだか大変そう、って思ってしまうのですが、そんな偏見を吹き飛ばしてくれる良い本でした。
時々始業式の日の朝ご飯に「気合を入れなきゃ」ってカツ丼を作ってくれるような不思議ちゃん・森宮さんとの吹き出してしまうようなやり取りも愛らしい。
高校の担任で、いつも真面目で淡々としている女性・向井先生が卒業生一人一人に宛てた手紙に、もちろん優子の境遇を知った上で、
「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」
と書いているのを読んで、思わず頷いてしまうくらい。
歴代の親たちが大集合する、大人になった優子の結婚式の場面、良かったねって、あったかい気持ちになれます。すべての登場人物が魅力的で色彩豊か、人間の優しさが溢れる小説です。とても読みやすくボリュームもちょうどいいので、大変オススメの一冊です。
次は外国人作家か、佐藤究のサスペンスにしようか、迷っていますが・・・多分、『蜜蜂』かな。
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