黒澤いづみ『人間に向いてない』

黒澤いづみ『人間に向いてない』

人間に向いてない
クリエーター情報なし
講談社

発売日:2018年6月14日
形態:単行本
ページ数:338
オススメ度:★★★★★

大学生時代の講義でカフカの『変身』を読んで「主人公グレゴールザムザが変身した虫の姿を描きなさい」というような課題があったことを思い出しました。

「人間が突然虫になってしまった」なんて小説はなかなかありませんから、『人間に向いてない』を読めば誰しもカフカを想起するのではないでしょうか。

カフカの『変身』では具体的にどのような虫になったのか細かい描写はなく、また主に虫になってしまった主人公の視点で物語が進みますが、『人間に向いてない』では変身する姿は人それぞれ、虫であり、犬であり、植物でもあるわけで、それに主観はしばらく変身した者の家族で進行していきます。

変身の原因は不明で、通称・異形性変異症候群と呼ばれる病によるもの。若年層の社会的弱者を中心に発症するとされており、発症した時点で法的には「死亡」したとされるこの病。息子が虫のような姿に変異した主人公の母親の葛藤が描かれています。

突飛な物語に思えますが、変身してしまった子どもたちとその親の関係性を突き詰めていけば、結局これは突然変異などではなく、親の自己中心的な考えや教育によって内面から少しずつ蝕まれていった成れの果てであると気づかされる。家庭によって教育方針も倫理も異なるのは当然ですが、子どもだからといって尊厳を無視したような言動を繰り返していくことが結果的に若年層の社会的弱者を増やしていく原因の一つであることは確かでしょう。

ラストもスッキリ、好きな終わり方でした。前回に続いて、当たりだったな。今読んでいる本は『人間狩り』、タイトルが“人間”繋がりであることにこのエントリーを書いている途中まで気づきませんでした。こちらも良作だといいんだけど。

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