第二回オボイスト会レポート【5】

ホテルに戻り、荷物の整理やシャワーなど済ませた後は万感の思いに浸りながら一日の写真を振り返り、オフ会メンバーのLINEアルバムに写真をアップします。odakou10さんと朝から12km以上も歩いていたのでそれなりに身体は疲れていたのでしょう、一通りやる事が済んでしまってからは、すぐに眠りに落ちました。

朝はオフ会の興奮が残っていたのか、5時半には目覚めてしまって。しばらくごろごろしていましたが、シャワーを浴びてホテルの朝食会場へ。バイキング形式の朝食を摂り、9時にはチェックアウトを済ませてホテルを出発。

二日目も思う存分コヒーレンスを味わいました。どうやったら格好良く着られるか色々考えてみたのですが、結局大量の荷物を抱えてホテルを出たためそれどころではなくただざっくり着ているだけでしたが、あまり深く考えずにガンガン着まくった方が案外いいのかもしれません。ディスパッチのバックパックを背負って。

まず向かったのは、要町。レポート2でも軽く触れましたが、事前にあのFugeeさんに連絡を取り、アトリエを見学させていただくお約束をしていました。何年も前からFugeeさんのバッグには憧れを抱き続けていて、スージースヴェルトのビスポークバッグを作る時もFugeeさんが過去に作られたバッグの写真をくまなく拝見し、ステッチの色などヒントをいただいたことを覚えています。

Fugeeさんとは11時にお伺いするとの約束でしたが、少々緊張していたこともあり9時半頃には要町についてしまって、近くにあったフレッシュネスバーガーの中でスムージーを飲みながら今回のレポートの下書きをしていました。

(gohkitiさんのブログのステマ)

今回のレポートはかなりボリュームが多く、その2を書いている途中ですぐに約束の時間が来てしまい、再び歩いてFugeeさんのアトリエまで。意を決してチャイムを鳴らす。すぐに女性の声が聞こえ、「お入りください」と案内されて扉を開けば、お二階からまさに藤井さんが降りてきてくださったところでした。

「ようこそようこそ、まあ楽にしてください」と案内してもらった部屋には、一度お目にかかりたかったFugeeのバッグが・・・! 着席を促されているのに、興奮のあまり立ちっぱなしでお話を続けてしまいました。

ずっと来てお話を伺いたかった旨を緊張しながらも伝えると、「そんな大したもんじゃなく、普通のおじさんですよ」と穏やかに微笑む藤井さん。ともにFugeeのバッグを作っている金原さんがお盆に載せてお茶を持ってきてくださる。先ほどインターホン越しにお話した女性です。

来店予約の電話をした際には、「革小物、特に名刺入れを見させてください」とお伝えしてあったのですが、什器に並べられた鞄を見てると居ても立っても居られなくなって、手にとって見させていただけませんかと伺う。
金原さんが渡してくれた白い手袋をして、まずはボックスカーフのクラッチバッグを見させていただく。透き通った黒のボックスカーフにスターリングシルバーのオリジナル金具が取り付けられたこのバッグ、どちらの革なのかを伺うと“ルー”というフランスのタンナーのものであるとのことでした。素人ながらそれなりにタンナーについてはいろいろ調べたりもしている私ですが全く存じ上げないタンナー名。

「まだまだ日本には入ってきていない素晴らしいタンナーが世界にはたくさんあるのですよ」、と藤井さん。

茶色のボックスカーフのこちらは、クリスペルカーフで作られたもの。どちらの色も美しく、パンと張ったバッグの表情にうっとり見惚れてしまいます。

続いて先ほどのボックスカーフのクラッチバッグと比べて一回り小さい、コードバンのものを。やはり稀少な素材ですから、このサイズでしか作れなかったということでした。コードバンという素材でバッグを作る難しさについても詳しく解説をしてくださいました。

横からの写真ならふっくらとした鞄の魅力が伝わりやすいでしょうか。部位によって厚みが違うコードバンは、例えば使い方を間違えればかぶせ部分の左右で沈んだり跳ねたりしてしまい、苦労すると仰ってみえました。バッグを作る際には徹底的にテストをし試行錯誤を繰り返す職人としての姿勢に、頭がさがる思いです。

藤井さんも、「こうやって鞄作りに対するこだわりや工夫について、話をするのが大好きなんですよ」と他にもいろんなバッグを見させていただきました。

例えばこちらのエレファントレザーで作られたバッグ。

構想40年。真鍮の無垢で作られたこのバッグのフレームは、最近になってようやく作ってくれるところを見つけて完成したという力作です。藤井さんは元々某自動車メーカーでエンジニアとして働いていた経歴をお持ちで、まず自ら鉛筆で細かく図面を描いてから鞄作りを始めるということでした。

ヨーロッパの蚤の市で手に入れた古いバッグを解体し、バッグについていたフレームを磨きなおし、再生させる。こちらも、下についていたバッグから外されたアンティークのフレームです。

Fugeeさんのブログは何度も読み返しているので、こう言った作業をされていることは知っていましたが、実際にこの目で見て話を伺うとそのこだわりぶりに聞いているこちらも熱を持ってしまう。

チャリ革のバッグ。“チャリ革”という革も私はFugeeさんのブログで知りました。
藤井さんが鞄職人として駆け出しの頃、その時すでに百貨店の一番上の棚に「名人が作りました」と言った具合で置いてあるバッグにはよくこの革が使われていたそうです。明治初期に革の生産技術を向上させるため、海外から招聘した技術者の名前から命名されたというこの革、圧倒的な迫力を放ちながらも繊細で美しく、光が当たると時々キラッと輝いて見えます。デッドストックでこの革を手に入れた藤井さん。最近では製造方法を少しだけ変更したチャリ革が山上という日本のタンナーによって再び作られているそうです。

そうそう、私は革小物を選びに来たんだった・・・目を移せば仕立ての美しいコインケース、札入れが並ぶ。

「表に使う革がクローム鞣しかタンニン鞣しかによっても違ってきますが、基本的にはライニングには全てボックスカーフを使います。私たちのバッグや革小物は20年は使えるようにと作っていますが、使い込んだ時にボックスカーフは大変綺麗な柳腰のドレープが現れるのです」

そして名刺入れも。こちらはオーナーのお迎えを待つ完成したオーダー品。白いクロコダイルで作られた小さい方はSDカードなどを入れるメディアケース、大きい方の名刺入れもその方の特注で少しマチが幅広に取られているそうです。

「在庫としてお売りできるのはチャリ革、エレファント、マットリザードの3つ、それぞれブラックです」と事前に聞いていました。

実物を見てからと思いながらも、在庫を聞く前から個人的には「デッドストックで作られたチャリ革の物がFugeeさんでしか買えない特別なモノ」という気がしていたので、相変わらず私は運がいいようです。ほとんど迷わず、チャリ革の名刺入れをください、と決めました。

それからも、名古屋から来たこと、趣味でブログをやっていて今回はその集まりで東京に来たこと、Fugeeさんのおかげでバッグを手縫いで作るということに私の中で憧れが生まれ、妻へのプロポーズの際には友人の力も借りながら実際に鞄を手縫いで作ったことなどを話しました。

「我々がなぜ手縫いという方法で仕立てているかといえば、すべては作品のクオリティのためです。手縫いという方法が素晴らしいからであって、もちろんマシンを用いた方がクオリティが上がると思えばマシンを使います。ものづくりで一番大切なのは、イメージすることなんですよ。いろいろな工夫や完成形を・・・そうだ、これをお見せしましょう!」とアトリエの隅に置いてあった大きな鞄を紹介してくれました。

一見して私はアタッシェケースで中は空なのかと思っていたのですが、開けてびっくり、それはオーダーメイドのワインケース。

「ボルドーなのかブルゴーニュなのか・・・どちらのボトルでもピッタリに収納できるようになっています。同じように下部を取り替えればワイングラスだって収納できるんだよ」と嬉しそうに語ってくれた藤井さん。下のつまみを回せば左右から抽出しが出てくる仕組みになっており、これについてはお客様のオーダーではなく藤井さん自身が考えてご提案した仕様だそう。まさに藤井さんは、理想のワインケース、そして完成した鞄を受け取るお客さまの喜んだお顔を“イメージして”作られたのでしょう。

隣にあった存在感を放ちまくっているクロコの鞄も。

(今度こそ中は空洞に違いない・・・)

(・・・!!!!!)

実はこれ、英国の老舗ブランド・Aspreyのもので、なんとこのサイズにも関わらずクロコの一枚革で作られていて、しかも中身は(収納部の写真を撮ってくるのを忘れてしまったのですが)化粧品などを入れる鞄だというのです。「仕立ては大したことないんだけど、一枚って、すごいよね〜。こういうのたくさん持っているお金持ちのお客さんが昔一つ置いていったのですよ」と藤井さん。どんな人なんだろう・・・。

そんなことで、楽しくお話しているうちにあっという間に一時間がすぎてしまって・・・バッグをオーダーすれば6年待ちという藤井鞄さん、お忙しい御仁をこれ以上拘束するわけにはいきませんから、「それではそろそろ失礼します」とお伝えすると、最後に藤井さんから大変嬉しいお言葉が。

「確約はできませんが、もし今後また東京で革やものづくりについてお好きな方たちと集まる機会があるのなら、是非みんなでうちへ寄ってください。事前にご連絡いただければ、いろいろ案内できるように準備しておきますから」

・・・! こんなことってあるんでしょうか。これで次回オフ会のメインイベントはもう決まったようなものです。「必ずまた来ます」と約束をして、最後にお二人のお写真を。

金原さんにお願いして、藤井さんとツーショットも撮らせていただきました。感無量です。藤井さんの温かいおもてなしに感謝しつつ、アトリエを後にしたのでした。

次回は再びodakou10さんと合流してから、名古屋に帰るまでを書きます。本編はそれでラストの予定ですので、もうしばらくの間お付き合いください。

コメント

  1. daiki より:

    ありがとうございました〜
    oboistさん、今年もオフ会ありがとうございました!レポート読みながら楽しい時間を思い返しています。藤井さんからのサプライズなお知らせに、早くも次のオフ会が楽しみ過ぎます…笑

  2. そろそろ より:

    Unknown
    なんと素晴らしい工房……次回は是非、『鞄持ち』として連れていってください。

  3. J より:

    Unknown
    オボイストさん、こんにちは。以前、スージースヴェルトさんの鞄をオーダーされていた時にコメントしたJです。お久しぶりです。
    Fugeeさんに行かれたととのこと。実は以前のオボイストさんのブログに触発されて、Fugeeの鞄をオーダーしてしまいました。あのアトリエの何とも言えない雰囲気と、何よりも藤井さん金原さんお二人の人柄が素敵なんですよね。
    僕のオーダーした鞄も数年後の完成なんですが、アトリエに遊びに行くと我慢しきれずに革小物を買ってしまいそうになるので、出来るだけ要町には近づかないようにしています。笑

    それにしてもいい写真ですね。素敵です。

  4. オボイスト より:

    daikiさん(^^)
    こんにちは! 昨年に引き続きご参加いただきまして、ありがとうございました♪

    はい、誰より私が一番驚いています(^^)笑 いつになるか分かりませんが・・・ちょっと早めて秋開催でもいいかなー、なんて、私が早く再訪したいだけなんですけどね^^; その際は是非ご参加下さい!

  5. オボイスト より:

    そろそろさん(^^)
    こんにちは〜! 行くまでは緊張しましたが、アトリエも作品もお人柄も素晴らしかったです。今後は是非一緒に!

  6. オボイスト より:

    Jさん(^^)
    こんにちは! ご無沙汰しております、覚えております(^^)

    Fugeeさんの鞄をオーダーされたのですか! おめでとうございます、完成が待ちきれませんね・・・!
    本当に温かいお二人で、ますますファンになってしまいました。小物を買いたくなるお気持ち、非常によくわかります。心の通った作品が放つ魅力には抗い難いですからね!

    藤井さんには写真掲載やブログ紹介も快諾いただき、感謝感謝です。

タイトルとURLをコピーしました