翌朝。一日目の夜は運転とトランクショーの興奮で疲れていたのか22時半頃にはぐっすり眠ってしまい、4時頃目が覚めました。せっかく早起きしたのだから、朝市にでも行ってみようと思ったのもつかの間、再び睡魔に襲われ二度寝から覚めて準備をしているとチェックアウトの10時直前になってしまいました。それでもこの日はKOKON以外に予定がなかったので、富山の海鮮を食べておこうと射水市八幡町のきときと食堂へと向かいます。富山駅前の宿から車で30分ほどでした。近隣の道路は地震の影響で地割れなどが残っており、修繕のための重機類と作業員の方たちが慌ただしく動き回っていました。きっときと市場も3月から営業が再開されたばかりのようです。お土産のほたるいかはこちらで購入しました。
きときと食堂では白エビとカニいくらの紅白丼をいただきました。しちょさんから「白エビは皮むきがすっごく面倒くさいんです」とDMで教えてくれましたが、ここでも私は作り手の苦労を知らずに甘い実だけをいただくのでした。とろけるように甘くて最高に美味しい。
腹ごしらえも済みたっぷり富山を満喫したので、次は金沢のKOKONへと向かいます。金沢の訪問先はKOKONのみと決めていましたので、時間を気にせずにたっぷりとお話が出来ればと。足元はもちろん前回の訪問時に購入したカールフロイデンベルグのLiverpoolです。
最初は「12:30に戻ります」と書かれたメモがドアに貼ってあり、少し時間があったので商店街を1往復。おしゃれなコーヒー屋さんやパン屋さんがあるかと思えば、古くからの昆布屋さんや薬屋さんなども同居しており、古きよきものと新しい風の両方を味わうことのできる素敵なストリートでした。どこへ入るともなくKOKON方面へ戻っていくと、ちょうど小紺さんが車で店舗の前に到着したところでした。特に予約していたわけでもないので最初驚かれていましたが、そのまま中に案内してくれました。
「修理の靴を預かってきたところでしてね」と小紺さん、昨年訪問したときと変わらぬ温かく静かな声です。店内のレジ後方の壁に、新しく去年私が訪れたときの写真が飾ってありました。kinoさんがフィルムカメラで撮ったものを届けてくれたのです。ど真ん中の一番良いところに貼っていただいて、ファンとしてはとても嬉しいです。去年のブログ以降、はるばる岡山からご夫婦で「この写真の、この靴が欲しいんです!」と私のStaffordの写真を小紺さんに見せながらオーダーしてくれた方がいたそうです。小紺さんからも「私は今KOKONブログくらいしか書いていなくて、Instagramなどは全然分からないので、昨年kinoさんとオボイストさんが“インスタへの靴のアップは僕たちに任せてください”と仰ってくれたのが心強くてね」と感謝されました。
まず最初に地震の件について、お見舞い申し上げました。元々引退後には故郷の輪島でゆっくり過ごそうと考えてみえたそうですが「家の再建なども考えると、一生現役です笑」と少し寂しそうに笑って話してくれました。それでも全国のKOKONファンからはお見舞いの連絡が相次いだそうで「何か必要な支援があればいつでも言ってくれ」というお客様の声がたくさん届いたとのことです。私も地震が起きた直後、輪島と聞いて真っ先に小紺さんを思い浮かべました。たまたま金沢の方の家にいらっしゃったそうでお身体には問題がなかったようですが、ご親族含め輪島の家については被害が大きかったと。
「kinoさんなどKOKONファンとも“僕にできることは何かないだろうか”と話していたんです」と小紺さんにお伝えします。私は年末頃にはお店を構える決心を済ませて準備に取り掛かっていましたので、何かTTBOを通じてKOKONに貢献できることはないかと勝手に考えていました。ただし私が出しゃばって各取扱店に迷惑をかけてもいけないので、実際に金沢へ足を運ぶまで胸の内に仕舞っておいたのですが、そうするうちに今度は名古屋の取扱店が奇しくもTTBOオープンと入れ替わるように5月2日に閉店するとのアナウンスがありました。小紺さんはどう考えているのだろうと、じっくりとお話を伺いました。
「実は去年から、トランクショーを開催させてもらえるお店を探していたんですよ。KOKONの靴は今後東京(グロスターロードが横浜から移転予定)と金沢でしか見られなくなるので、いろいろと長野や大阪のお店と打ち合わせしたりもしていたのですが、結局途中で話が途絶えてしまっていて。来年で30年になるKOKONですが、これからは自ら店の外へ出向いて、お客様のご意見を伺いながらニーズを吸収したいと思っています。これまでの経験で、どこまでいい提案が出来るのか自分に試練を課したいという思いもあります。人生は旅ですからね」と小紺さん。
まさか地震が起きるより前にトランクショー先を考えていたとは驚きですが「もしTTBOでよければ使っていただけませんか?」と提案してみると、あっさりOKが出ました。それも小紺さん自身が私の店まで来てくださるというのです。これは本当にすごいことで、29年のKOKONの歴史上初めてのことだそうです。通常取扱店ではハンドメイドラインは常世田さんの作品のみを取り扱いしているのですが、今回は金沢KOKONの出張扱いになりますので常世田さんに加えて高野圭太郎さん、小林晃太さんのKOKON三人衆すべてのオーダーが可能です。それぞれの職人さんに異なる魅力があるので、当日お客さまとご希望のモデルなどお話をしながら小紺さんが判断してくださるとのこと。
ここまでTTBOの所在地を詳しく説明していなかったので、私から小紺さんに「名古屋ではなく三河安城という郊外の都市にお店があるのですが」とお伝えすると「おお、安城ですか!」となんとご存じの様子。聞けば、その昔、輪島市の白米(しろよね)千枚田が後継者不足により荒れ果てていたところを、安城東高校(私が通っていた隣の公立高校)が修学旅行先として選定して10年以上も草刈りの奉仕活動をしていたのだそうです。それ以降、白米千枚田の保全に全国からボランティアが集まるようになったそうで「わじまあんじょう友の会」なるものまで発足。今でも互いの市を行き来し合い、安城市からは田植えや稲刈りをお手伝いする良好な関係を築いているとのことで、小紺さんと私のルーツが密接に関わっていた事実に驚きが隠せませんでした。ここまでトランクショーのお膳立てが済んでいたとなると、もはや運命さえ感じてしまいます。
他にもいろんな話をじっくりさせてもらって、気付けば2時間以上が経過していました。トランクショーの日取りまでもがこの場で決定し、予約サイトも早速作りました。せっかくだから何か買わせてもらおうと、前回帰ってから「あれも買っておけばよかった」と若干後悔した馬毛ブラシをTTBO店頭用に購入しました。石川県産の朴木に輪島の職人が漆塗を施したKOKONオリジナル手植えブラシ・通称コワテブ。
「漆は完全乾燥しないから、握っていると手に吸い付くような感覚があるんですよ。グリップしやすくなってブラシに漆塗りはおすすめなんです」とのことでした。ハンドル部分にKOKONの焼き印がされていなかったので理由を尋ねてみると「綺麗に塗ってもらっているので、焼き印を押してしまうのがもったいなくて笑」と小紺さんの輪島愛ゆえでした。KOKONで濃厚な時間を過ごしてから真っすぐ愛知に帰った私は、早速TTBOの店頭に買ったばかりのブラシを並べてみました。一番のお気に入りである英国アンティークのキャビネットの上に置きましたが、輪島塗のブラシは全く見劣りすることがありません。また一つ、人との繋がりを感じるアイテムが増えました。トランクショーを通じて、少しでもKOKONと小紺さんのお役に立てると思うと、私は嬉しくて仕方がありません。
KOKONトランクショーは7月15日海の日の午後が中心です。16日も予備枠として午前中に設定してありますので、どちらでもお好きな方をご入力ください。基本的にはオーダー会ですが、備考欄に靴のサイズやご希望のモデル、革の種類などを記入いただくと、思わぬ掘り出し物を小紺さんが持ってきてくれる可能性があります。
もちろん気になっていて試着だけ・・・などでも大丈夫ですし、お友だちと一緒に来ていただいてもOKです。(部屋の大きさから一応1グループ3名までとさせていただきます) 金沢以外で小紺さんに会える貴重な機会ですので、皆様どうぞ下記予約リンクよりふるってご参加ください。
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