KEIICHIRO FUKUSHIMA ビスポークトランク①

Leather goods

“トランクケースをビスポークする”。これは、鞄好きが最後に辿り着く究極の夢なのではないでしょうか。少なくとも私にとっては、その壁はあまりにも高く、今回の人生では超えられないものと思っていました。

通常の革鞄とは違い、革以外に木材の細工技術や、緻密な設計が必要となります。ビスポークでオーダーを受けてくれる工房も限られる中、私もずいぶん長い間夢見ているうちに「ああ、きっとトランクのオーダーは叶わない。来世に期待しよう」と半ば諦めかけていました。

そんな中で出会った職人・KEIICHIRO FUKUSHIMA。今や私の一番の友人である汗だく氏(名前が映えないので以下Kっちゃんとする)が繋いでくれたご縁で、時計のストラップと同時にオーダーしたのが今回のトランクでした。完成を目前にしてアトリエに鎮座するボルドースエードのジュエリーボックスを見た時の衝撃は今でも忘れられません。「ああ、これまで何だかんだとオーダーに至らなかったのは、この人に出会うのを待っていたのか」と妙に腑に落ちるものがありました。

二度目の打ち合わせに行ったのは7月の終わりでした。仕事で使っているグローブトロッターの18インチスリムアタッシェを参考にしようと持っていきました。福島さんが真剣な眼差しでバッグを採寸していきます。

前回訪問時に、ベースとしたい過去作品を参考に、ボディに使う革についてはある程度目星をつけていました。型押しのゴートで、下の作品と比べるとワントーン色の濃いものです。

福島さんは国内の革問屋などは基本的にほとんど使わずに、自らの足で海外へ出向いて、見定めて、気に入った革があれば大量に買い込んでくるそうです。ある程度好みが決まってくると、アトリエの別の部屋から「これも好きなんじゃないですか?」と私の趣向に合いそうなものを持ってきてくれるスタイル。

ボディーのゴートについてはすぐに決定したのですが、コンビにするトランクの隅に当てがう革選びは少し悩みました。一緒にブリーフケースをオーダーしたKっちゃんは写真右側の20~30年前のモノホンアンティークベビーカーフを既に選んでいたので、私のトランクにもそれを採用するのが面白いかなと思っていたのですが・・・福島さんが奥の部屋から肩に抱えて持ってきた、まるでドラム缶のような迫力満点のタンニン鞣しのカーフも捨てがたく。

「これは芸術作品用にと購入しておいた革なんですけど、今回のトランクには絶対に合うと思います」と力強くお勧めしていただいたので、福島さんの言葉を信じて最終的にはこちらにしました。カバンに限ったことではありませんが、基本的に職人さんが作りたいお勧めの素材でオーダーすることが成功の秘訣だと思っています。

Kっちゃんはブリーフケースのハンドルに、こちらの燻製したかのような大迫力のワニを採用するか悩んでいたのですが、エキゾチックレザーを使う場合はとある実用上の懸念点が残り、アンティークベビーカーフで統一することになりました。KEIICHIRO FUKUSHIMAのアトリエは普段絶対にお目にかかれないような特殊な革がたくさんあり、革好きとしてはこの上なく眼福。

福島さんは私がこれまでに出会ったどの職人さんとも視点が違って、とにかく“美しいものを残したい”という意志が強い方です。元々独学で鞄作りを覚えたという福島さん。年間多くの時間を使って地球上のあらゆる国へ足を運んで、美しい景色や建造物などを目に焼き付け、そしてそんな世の中の美しい存在に匹敵するようなバッグを作りたいと願っておられるそう。下の写真は今年アムステルダムの海岸で一日中夢中になって拾ったという、美しい模様の貝殻。

「自分の好みだけに偏らないようにと心がけて拾っていたのですが、こうしてみるとやっぱり自分好みのものが多くなってしまっていますね」と語る福島さん。私のような凡人は、せっかく海外に旅行へ行ったのなら色々な観光名所を巡りたくなってしまうものですが、美しいものを心から愛でられるピュアな感性の持ち主だからこそ、KEIICHIROのバッグはどれも芸術品のような輝きを放つのでしょう。

「さっきの貝殻の模様もそうなんですけど、世の中の美しいものは不思議なことにどれも黄金比で成り立っているんです。僕の作品でもこういう意識を取り入れたいと思っていて。この地球の歴史の中でこんなにも長い間美しいと思われてきたものに、敵うはずがないからね。自分たちが死んだ後も、美しいものとして作品が語り継がれていってほしい」と福島さんは仰います。地球や宇宙と比べればほんの僅かな時間しか生きていない、何も知らない我々の理解が及ばない美しさを、少しでも追求しようとする姿はなんというかもはや次元が違いますよね。

この打ち合わせの数日後、福島さんは今度はジョージアに向けて出発しました。ブラジルまで行ってカポエイラの大会に出場していたり、とにかく人間としての幅がぶっ飛んでいる福島さんが魂を込めて作ってくれたトランクの詳細と受け取り編については、次回の記事でご紹介したいと思います。

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